香港と中国本土の政治・経済・社会ニュースを日本語で速報します
インタビュー

上海清環環保科技有限公司(STECO)​董事長 清水泰雅さん

3月の全国人民代表大会(全人代)で李克強・首相が発表した政府活動報告では、今年も引き続き生態環境を改善し低炭素経済の発展を促進することが言及された。カーボンニュートラル推進、大気汚染改善、廃棄物リサイクルなどの環境保護産業を支援する政策が続々打ち出される見込みだ。今回は上海で環境保護事業を展開している清水泰雅氏に中国の環境問題、経済状況、さらに頻繁に赴いている新疆ウイグル自治区に関する事情を伺った。

清水泰雅さん

STECO GLOBAL LIMITED(香港) CEO

上海清環環保科技有限公司(STECO董事長

同済国際緑色産業創新中心(TIGIIC副センター長

プロフィール

1961年愛知県名古屋市生まれ。90年より愛知県で空調・ダクト洗浄の専業サービス業を創業。2005年、中国上海市に設備メンテナンスサービスを主業務とする上海清環機械技術服務有限公司を独資で設立。同済大学の譚洪衛・教授とJETROの後援を受けた同済国際緑色産業創新中心(TIGIIC)設立を主導。現在も副センター長として日中技術交流の第一人者としても知られている。

――環境保護ビジネスとして中国に進出していますが、設立からおよそ20年経過した今、中国の環境事情はどのように変化していますか。

上海に最初に進出した2005年当時、こちらでは日本では当たり前であった「工場で使用される付帯設備の定期的な保守メンテナンス」が普遍化しておらず、機械は壊れるまで使用し、ダメになったら入れ替えるというような状況でした。しかし、2010年頃よりエネルギーの無駄遣いや環境への影響と言うことが政府の方針に組み入れられたことから、少しずつ注目を浴び始めました。そして2012年からは政府がエスコ事業(中国ではEMC)を推進し始めたことから潮目が変わり、加えて2015年から環境対策、環境保護の強制性のある政策によって環境ビジネスが伸張してきました。

今では日本式の経験値による人の手で行うサービスだけでなく、AIやITを活用したスマート工場、統合された設備保守メンテナンス、未然に事故を防ぐと言ったより先進的な対策構築が進んでおり、日本より一足先を行く状況にあります。

――環境保護事業のほかにも、日本企業の中国進出などのコンサルタント事業もされているそうですが、近年の動きはどうでしょうか。

主に中堅企業による本土の進出の相談を受けることが多いです。2020年以降はコロナ流行により一時動きは停滞していましたが、21年の春頃からまた急に動き始めており、ここ1年ほどで本土への企業進出や中国でのビジネス拡張の話が一気に進んでいる印象を受けます。

特に化粧品業界の進出などは増えている印象を受けます。

恐らく事業計画が一度(コロナ流行で)頓挫したところで、再構築して方向性が決まって動いている結果だと思われます。

駐在社員は長く滞在しないため、日本企業のCEOでさえ中国の「確かな情報」をしっかり理解しないまま帰国されることが多いのですが、長年中国に住んでいる立場として出来る限りサポートし、皆さんにも理解してもらいたいという思いでコンサル事業を行っています。

――確かな情報というのはどのようなことでしょうか?

 

肌感覚ですが、今日本と中国との間でさまざまな問題がありますが、中国人はこうした状況を冷静にみています。メディアが一部を切り取って報道している様は中国でもよく理解されています。例えばニュースなどで中央政府に工場の稼働を突然止められるなどの報道がでることがありますが、これは正確な報道ではありません。

中国政府は決して突然何らかの法律を作り出し、基準を変更して無理矢理締め付けるというようなことは回避しています。過去には「一刀切」(条件を満たさなければ有無を言わせず切り捨てること)式の法執行が行われていたことは事実です。しかし、現在は民間に対しては「全人代」などで発表する大まかな政策や各部局が発する様々な通達により予めどうなるかを伝えています。しかし、それを知らず方向性を理解していないと、上記のように「突然言われた」とか「突然閉鎖された」などということに陥ってしまっているのが現実なのです。

情報を遮断してきた時代はありましたが、15年くらいから中国では海外からの情報の報道の仕方に変化がでてきました。最近は随分ネット上でも情報はオープンになっています。

当然ではありますが、中国政府が望まない情報はできるだけ拡散しないように制限されていますが、それ以外については今ではほぼオープンだと言えます。特にVPNなどの技術を使えば西欧社会の情報は簡単に手に入りますし、中国国内の人も自分の意思でそのような情報に触れています。

――中国国家統計局は先ごろ21年の国内総生産(GDP)伸び率を8.1%と発表しました。今後、経済成長の柱として期待される内需拡大について見解を教えてください。

 

確かに今後は内需経済を強化していくでしょう。今後の経済成長の柱については、この1年を振り返るとコロナ流行の影響で各地域政府は相当ダメージを受けています。特に教育改革や不動産規制などにより経済が痛んでいるのが現状です。

不動産業界については、日本での報道ではバブルがはじけたなどと出ていますが、実際には規制緩和しているので北京冬季五輪を機に不動産は大きく動くと思います。不動産を動かさないと地域サービスを動かせません。また地方債の発行も緩めると思いますので、北京冬季五輪がひとつの流れをつくると思います。

上海に住んでいると、内需経済がポジティブ方向に舵をきっている状況をとても感じます。地域格差については産業格差もそうですが、中国では共同富裕(共に豊かになる)や三次分配(慈善公益方式で富を分配)という動きがでています。これにより大手企業は過疎地の農村地区などに向けた寄付をはじめているわけです。格差是正のための取り組みも始まっています。

――中国本土では、日本国産の食品に対するニーズが高まっているようですね。

コロナ流行により日系の飲食店が淘汰されるなど厳しい局面を迎えましたが、それでも日本の食品に対するニーズは高まっています。21年度の日本の中国向け農林水産物・食品の輸出額は前年同期比38.5%増の2024億円となり、2020年まで16年間首位だった香港を抜いて1位になりました。コロナ流行の状況が変わり次第、今後さらに伸びていくと思います。

――今後輸出が加速するであろうなかで、日系企業に対して課題、留意点などありますか。

先ずは「過去の中国に対する古いままの認識」を捨てることが大前提です。腰掛け的な中国進出はやめ、進出に当たっては、中国をよく知る日本人ビジネスマンを活用することです。即断即決できる権限を現地に与え、第一級都市ではなく、第二級、第三級都市でシェアをとりに行くこと。中国が推進する「一帯一路」に乗じ、中国進出を最終目標にすることなく、商品を西方に拡販・拡大する長期目標を立てることです。

近年の飲食業界の状況をみると、本物志向の消費者がより増えていると感じます。特に売り上げについては変化がでています。たとえば日本料理店はコロナ流行で減少しているなか、スーパーは横ばい、ECは拡大傾向にあり伸びています。特に若年層においては、食だけでなくライフスタイル向けのセレクトショップが拡大しています。常に新しい情報を求めている彼らにとって市場の開拓は必須でしょう。

以前、上海にあるスーパー「Apita 」で開催された沖縄県の泡盛フェアは成功しました。中国には伝統的な酒として白酒があるので、泡盛のアルコール度数を高すぎると思った人は少ないと思います。イベントでは、中国で初めて出展した沖縄の酒造メーカーが多かったのですが、早くも中国での販売を希望している企業が増えました。

こうしたイベントで初めて中国市場の状況を把握した日系企業も多いので、今後、中国市場の開拓を前向きに考える日系企業は、小規模でも期間限定のB2B向けプロモーションイベントを開催することをお薦めします。売り幅を一気に増幅させる商機になると思います。

――新疆ウイグル自治区にビジネスで毎月行かれているそうですが、日本のメディアで取りざたされている人権侵害問題などについて実情はいかがでしょうか。

 

私は新疆ウイグル自治区首府のウルムチに毎月行きますが、いわゆるジェノサイドといった人権問題などが起こっているような状況は見当たりません。地元の人と話をしてもそれらしきことは聞いたことはありません。

漢民族がウイグル族を弾圧しているような報道が目立ちますが、私のビジネスパートナーが経営する会社では漢民族が従業員として雇用されており、オーナーがウイグル族です。このような会社は現地には普通に存在しています。

交通インフラが乏しく車の利用が多いウイグルでは、人気の車は日系車です。地元の人に聞きますと、故障が少なく燃費の良いものは断然日系のものだと口々に言います。ちなみにファミリーカーが人気ですね。ウイグルにはフォルクスワーゲンの工場があるのである程度売れているはずなのですが、面白いことに日本車工場はないにもかかわらず人気が高いんです。

また、日本の食材はスーパーなどに入っていないため、日本の食文化はよく知らない人が多いですが自動車は人気です。

2023年にはウルムチ地窩堡国際空港の第4旅客ターミナルが完成し、ますます国際都市として賑わいをみせています。ウイグル市場は今後、日本企業にとってビッグチャンスがある市場といって間違いありません。

【筆者・楢橋里彩】NHK地方局キャスター、ディレクターを経て、中国大連電視台アナウンサーに。その後香港で『香港ポスト』にて企業トップやビジネスリーダーのインタビューなど担当。

今なら無料 日刊香港ポストの購読はこちらから
香港メールニュースのご登録

日刊香港ポストは月曜から金曜まで配信しています。ウェブ版に掲載されないニュースも掲載しています。時差ゼロで香港や中国各地の現地ニュースをくまなくチェックできます。購読は無料です。登録はこちらから