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令和 政経ミステリーゾーン

令和 政経ミステリーゾーン

本当に香港から外資が撤退するの?

アメリカを筆頭に欧米諸国のリーダー達は、香港版国家安全法の成立で香港から外国資本が逃避すると分析しています。これまで香港は世界の投資資金だけでなく1日に1兆ドル以上が動くと言われるホットマネーの受け皿にもなってきました。本当に外国資本は香港から逃避して、香港の国際的な地位は低下していくのでしょうか?
(ICGインターナショナル代表・沢井智裕)

アメリカによる香港制裁は勘違い

トランプ大統領は、景気の動向は気にしているけれども、経済対策はあまり得意ではありません。香港版国家安全法の成立で、トランプ政権のマイク・ポンぺオ国務長官は、香港に対する特殊待遇を撤回することを示唆していました。具体的で詳細な優遇撤廃を見てみないと判定は難しいですが、中国よりもアメリカの方が不利に見えます。

貿易データで見るとアメリカは香港の第2の貿易パートナー、そしてアメリカにとっても香港は第2の輸出市場となっています。2018年の香港から米国への輸出は460億米ドルです。また2018年末現在、アメリカの銀行が香港に持つ資産総額は1480億米ドル、顧客の預金残高は790億米ドルですが、これは香港の銀行業全体のたった約5%を占めるだけです。

実はアメリカは5月に米上院で、外国企業説明責任法(Holding Foreign Companies Accountable Act )を可決し、今後下院でも採決される見通しです。この法案は、「外国企業」とわれていますが事実上、アメリカの証券取引所に上場する中国企業を対象としたものであると言われています。これまで中国企業はアメリカの会計基準を無視して独自の査定で会計監査を行ってきたために、「アメリカの投資家に損害を与えてきた。あるいは過剰なリスクを負わせてきた」というのです。外国企業は3年連続でアメリカの公開企業会計監視委員会(PCAOB)の監査基準に満たなかった場合、または違反した場合に、アメリカの証券市場では上場廃止になるというものなのです。

ちなみにアメリカの証券取引所に上場している中国と香港の中国系企業は、213社ありますが、そのうち95%の企業がアメリカの会計基準に準じた監査を受けていないことが分かっています。その中にはみなさんもご存知の情報技術企業で持ち株会社のアリババ・グループホールディングや検索エンジンの百度(バイデゥ)が含まれています。この2社はアメリカで上場廃止になった場合のヘッジとして、香港にくら替え上場することを考えているとの報道がありました。アリババの株式時価総額は6200億ドルです。213社のうちたった1社が香港証券取引所に鞍替え上場するだけで、香港内のアメリカの資産の1480億ドル、顧客の預金残高は790億米ドルの合計2270億ドルをいとも簡単に上回ってしまいます。

ましてやアメリカが貿易面で香港の優遇措置を撤廃するのなら、貿易に従事する香港の人達の収入減につながったり、最悪のケースでは失業に追い込んでしまうこともあるでしょう。そうなりますと香港の労働者は、アメリカは我々を救うどころか、奈落の底に突き落とす行為であると一気に反米に転じることとなるでしょう。

プレイヤーが変わるだけ

アメリカを筆頭とする外資が香港から撤退すると仮定して、資本が不足する事態が起こるのでしょうか?

実は変わって中国本土から資本が流入してきます。米金融情報会社ブルームバーグあたりは、中国本土企業による不動産投資、及び新規株式公開(IPO)が加速すると分析しています。アメリカ資本が撤退したとしても、中国資本がその代わりを果たし、香港の金融面、経済面での優位性はそれほど下がらないのでしょう。

また2028年から30年にかけて、中国の経済規模がアメリカの経済規模を抜いて世界一になると予想されています。現在は対中強硬姿勢を見せている欧米諸国の姿勢にも変化が見られるかもしれません。低成長時代に突入した欧米諸国の潜在成長率は、ユーロ圏全体ではほぼ1%前後と言われていますので、彼らにとって世界一の経済大国になる中国ビジネスは、避けては通れないでしょう。人権や自由を盾にして対中関係を悪化させる事は、自国民を貧困に追い込むということを意味するからです。冷静に現実を見た時に欧米人は、貧困に我慢できますでしょうか?

日本人には清貧の思想というものがあります。今の日本の現状は諸外国ならとっくの昔に大暴動が起こっているはずですが、清貧の思想の元に日本人は我慢をしているのです。もちろん日本の政治家は国民の好意に甘えている訳ですが…。コロナ禍の欧米諸国のリーダー達の対中強硬姿勢は国内向けのパフォーマンスを行っているに過ぎません。現在の欧米諸国の対中強硬姿勢は、民主主義対社会主義という構図だけでなく、有色人種に対する差別的な感情も含まれているような気がします。

近代史において、奴隷制度を合法化していた国家はアメリカとイギリスの2カ国だけです。かつてアメリカではアフリカから「輸入」してきた黒人を物々交換で買い取っていました。例えばですが「米俵10俵」と「黒人奴隷2人」といった具合に取引していた事実があるのですから、アメリカで黒人差別がなくならないのはある意味、当然と言えば当然ですね。

米ミネソタ州ミネアポリスで警察官に不当な拘束をされて、亡くなられたアフリカ系アメリカ人で黒人のジョージ・フロイドさんの事件を筆頭にその後黒人を対象とした差別的な事件があとを絶たないのは、記憶に新しいところです。このようなアメリカやイギリスの歴史的な背景は今日でも根絶できない差別意識に大きく影響しているのです。そういう意味では、アメリカが人権とか自由とか美辞麗句を並べる姿は非常にです。

むしろ武士道精神の浸透している日本人は、冷静にアメリカを反面教師として学ぶべきでしょう。社会主義国の中国の肩を持つつもりは毛頭有りませんが、同じ民主主義でも欧米諸国の文化・習慣が正当的かというと、そこには大きな疑問符が付きます。

話を元に戻します。一時的に欧米諸国が香港から資本を引き揚げ、アジアの他国に拠点を移したとしても欧米諸国の資本は、必ず戻ってきます。それが香港か上海か北京か、果ては内陸部か分かりませんが、欧米諸国にそれだけ崇高な理念があるようには到底見えないからです。彼らは必ずおカネに釣られて中国と和解するタイミングが来るでしょう。日本は独立国家です。本来ならば日米『不平等同盟』を日本人は恥と思わなければなりません。中国かアメリカか、どちらかに付くのではなく、政策ごとに是々非々でこれらの大国と付き合っていく必要があると思います。
(このシリーズは月1回掲載します)

アトム&ジュエリーのお笑い劇場

アトム:そろそろ香港政庁から1万香港ドルの振り込みがあるかなあ?
ジュエリー:コロナ禍で仕事もままならなかったから、良かったよね。減給に遭ったり、失業した方々もいらしたから、多少の生活費にでもなればいいわよね。
アトム:ただ香港のリビングコスト考えたら、1万香港ドルって、すぐになくなってしまうでえ。家族連れなら1か月の家賃も払えへんやろ? 一ちゃうわ。
ジュエリー:香港政庁も昨年は大規模デモやコロナ対策で、19年、20年と2年連続赤字財政だから仕方がないのよ。
アトム:それは関係ないんとちゃう? 香港政庁のリザーブって半端ないでえ。毎年の財政黒字から貯めている剰余金が1兆1000億香港ドル(約15兆4000億円)もあるんやから、もっと使ったらええのになあ。あのうつけでケチと言われた織田信長でさえ明智光秀を家臣に迎える際に4000貫の知行を払ってるんやから。この一大事に使わんで、いつ使うねん。当時、売り出し中の秀吉は2500貫しかもらってなかったやん。
ジュエリー:まあまあ各国・地域には様々な事情があるのだからね。そのリザーブをもっと未来に投資すればいいのよ。
アトム:それやったら、手始めにビクトリアピークからセントラルのランドマークまでロープウェイで結ぶ。それとIFCからのバンジージャンプ。こんだけ高いビルが多いんやから利用せん手は無いやろう? 極めつけは、チムシャーツイからビクトリアハーバーまで潜水艦や。
ジュエリー:誰が利用するのよ? 潜水艦って、あんな汚い水、何も見えないでしょ。
アトム:大丈夫。欧米人は香港出ていく前にやるって。恐らく大流行やでえ。

筆者紹介

沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインターナショナル 代表取締役 イスラエル人パートナーと共同経営。香港在住。日系証券会社、外資系金融機関を経て、1995年にICGグループを設立し、プライベートバンキングビジネスを中心に幅広く金融業を行う。またユダヤ人富裕層のコミュニティと強力な人脈を持つ。最近は日本の上場企業や各団体からの依頼により日本国内で講演活動を行う。グループ内のICGアクセラレート社は、日本とイスラエルのハイテク企業を繋ぐパイプ役を務める。日本の技術力の国際優位性の維持には、スタートアップ大国のイスラエルとの連携が不可欠との持論を展開している。
https://icgadvisor.com/
http://www.icg-accelerate.com/?lang=ja

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