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よくわかる税金問題

在香港外国企業の動向及び税務上の留意事項

このコーナーでは、香港・中国及び日本の会計・税務に関する問題についてご紹介させていただきます。

2020年の国家安全維持法及び2024年の国家安全維持条例の施行により、現在も在香港外国企業の多くが今後の経済活動の展開について不安を抱えていると思われます。このような状況下で、2024年12⽉に公表された香港政府統計処の最新統計データを見ると、日系企業を含む在香港外国企業数は例年と比べて大幅に増加していました。多くの企業は香港の優位性は依然として失われていないと判断したことが分かります。

今回は、最新の統計データを解説するとともに、このような状況下における税務上の留意事項について解説いたします。

在香港外国企業数及び日系企業の推移

2024年12⽉17日、⾹港政府統計処は⾹港に拠点を置く外国企業(中国本⼟系企業を含む)の数を公表しました。過去5年の推移は以下の表のとおりです。

【表1:在香港外国企業数の推移】

(単位:社)
2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
地域統括本部(RHQ) 1,504 1,457 1,411 1,336 1,410
地域事務所(RO) 2,479 2,483 2,397 2,311 2,410
現地事務所(LO) 5,042 5,109 5,170 5,392 6,140
9,025 9,049 8,978 9,039 9,960

香港政府統計処「有香港境外母公司的駐港公司按年統計調査報告」から引用

【表2:在香港日系企業数の推移】

(単位:社)
2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
地域統括本部(RHQ) 226 210 212 206 200
地域事務所(RO) 427 423 402 411 420
現地事務所(LO) 745 755 774 786 810
1,398 1,388 1,388 1,403 1,430

香港政府統計処「有香港境外母公司的駐港公司按年統計調査報告」から引用

  • 地域統括本部(RHQ:regional headquarters):香港外に親会社があり、親会社に代わって香港及びその他の地域の拠点の運営に対するマネジメント権限を持っている拠点
  • 地域事務所(RO:regional office):香港外に親会社があり、親会社に代わって香港及びその他の地域の拠点の運営を調整する責任を持っている拠点
  • 現地事務所(LO:local office):香港外に親会社があり、香港でのビジネスのみを担当する拠点

これによると、在香港外国企業の数は2024年6月時点で9,960社、そのうち日系企業は1,430社となり、いずれも前年から増加傾向にありました。ただし、内訳で見ると、地域統括本部の数は2020年以降は減少傾向にあり、一方で、香港内でのビジネスのみを担当する現地事務所が大きく増加傾向にあります。在香港外国企業が、香港を地域統括本部として活用する比較的大規模な企業から、香港内でのビジネスを目的として進出する中堅・中小規模の企業へと入れ替わっているのかもしれません。

在香港日本人数の推移

また、外務省が公表している『海外在留邦人数調査統計』による在香港日本人数の過去5年の推移は以下の表のとおりです。

【表3:在香港日本人数の推移】

(単位:人)
2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
在香港日本人数 23,791 24,097 23,166 22,930 22,877

外務省公表『海外在留邦人数調査統計』を加工して作成

前述のとおり在香港日系企業は増加傾向にあるものの、在香港日本人数は減少傾向にあります。これには色々な要素があるとは思われますが、香港の昨今の政治的不安、不動産価格を中心とした物価高等を考慮して、香港に配置する駐在員を減少させている可能性は否定できません。

駐在員の減少に伴う留意事項

海外法人の駐在員は、取締役または管理職として、現地法人を管理する立場で派遣されるケースが多いと思われますが、その分、高コストになりがちなので、コスト削減のためにマネジメント層の駐在員を日本に帰国させるケースが見受けられます。もちろん、Web会議等のツールの普及により遠隔でコントロールすることが容易になっていますので、実務的には駐在員不在という対応も可能となってきていますが、税務上はいくつか留意すべき事項があります。

  • 外国子会社合算税制

外国子会社合算税制とは、税負担の著しく低い国・地域の子会社等を利用した租税回避行為に対処するため、海外子会社の所得を日本の親会社の所得に合算して課税する制度です。この税制の詳細については、紙面の都合上割愛しますが、簡略化すると、低税率国にある海外子会社に経済的実体が乏しい等の状況がある場合には、海外子会社で稼得した課税所得が全て株主である日本法人の所得に合算され、日本の税率で税金が課されてしまうという制度となります。そして、経済的実体が乏しいかどうかは、経済活動基準と呼ばれる4つの基準を全て充足しているかどうかで判断されるのですが、駐在員を帰国させて香港に在住する取締役が不在となる場合、管理支配基準(本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること)を満たしていないと判断される可能性があり、日本での合算課税のリスクが高まると思われます。

  • 租税条約の適用のための居住者証明書の取得

居住者証明書とは、香港税務当局から香港居住者(法人も含む)へ発行される身分証明書であり、租税条約における税制上の便益を享受する目的で用いられるものです。例えば、中国法人からの配当を受領する際、中国の国内法では10%の源泉税が課されるのですが、香港法人が居住者証明書を取得して租税条約を適用することにより源泉税が5%に軽減できます。ただし、無条件にこの軽減税率を適用できるわけではなく、香港法人に実体が伴っており、かつ経営管理が香港内で行われていること等が要求されます。そのような条件を満たしている場合に居住者証明書が発行され、租税条約が適用できることとなりますが、香港法人の取締役が香港を不在にしており、香港内で経営管理が行われていない場合にはこの居住者証明を取得できない可能性があるため留意が必要です。

まとめ

越境リモートワークの普及により、物理的に香港に滞在していることのビジネス上の重要性は低下していると言えますが、税制上は物理的に香港に滞在していることを重視する考え方が依然として残っているため、香港法人の駐在員(特に管理者層)を減少させる場合には、税務上の影響を慎重に検討した上で進めることが重要となります。

 

筆者紹介

フェアコンサルティング香港/深圳・広州

日本、香港、中国、ベトナム、シンガポール、インド、台湾、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、メキシコ、オーストラリア、ドイツ、アメリカ、イスラエル、ニュージーランド、オランダ、イギリスを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェアコンサルティンググループの香港及び深圳・広州拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士が、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務、財務戦略を企画、立案、実施支援しています。

<連絡先>

香港事務所

責任者:山口和貴

電話:+852 9283 2096

  メールアドレス:ka.yamaguchi@faircongrp.com

  

中国事務所

責任者:粟村英資

電話:+86 138 1707 3605

メールアドレス:hi.awamura@faircongrp.com

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