防疫抗疫基金第5弾35億ドル超
香港では1月初めに新型コロナウイルス感染症(COVID―19)オミクロン変異種ウイルスの市中感染が明らかになり、新型コロナ流行の第5波が巻き起こった。再び社交距離措置は引き締められ、多くの業界で営業停止。香港経済は春節(旧正月)シーズンを迎える矢先に景気回復の腰を折ることとなった。
飲食店業界で3月に廃業の波を予想
林鄭月娥・行政長官は1月14日、社交距離措置の延長を発表した。当局の最新分析では新型コロナ流行第5波がまだ抑制できておらず、流行が激化するリスクがあるとみなしている。このため現行の社交距離措置を春節(旧正月)3日に当たる2月3日まで延長すると決定。飲食店では午後6時から午前5時まで店内飲食禁止、バー、フィットネスセンター、美容サロン、カラオケ、浴場、テーマパーク、劇場・映画館、博物館、スポーツ施設など15種類の業界・施設の営業停止。加えて大型イベントも中止せねばならず、歳末花市と新春花市が含まれる。旧正月明けにウイルス流行状況が顕著に逆行または激化しない限りは段階的に制限を受けている業界・施設の営業を緩和するが、ワクチンバブルを基礎とするという。
旧正月歳末風物詩として域内15カ所で開催が予定されていた農暦年宵市場(花市)と大埔林村放馬甫新春市場は中止された。政府は先に花市の規模を調整するとともに一連の防疫措置を講じたが、花市には多くの市民が集まるため疾病伝播のリスクを低減するため中止を決定。食物環境衛生署は露店の出店権を落札した経営者に費用を全額払い戻すほか、防疫抗疫基金の下で露店使用費用の50%に当たる支援金を支給する。
新型コロナ流行第5波に対応して当局が防疫措置を引き締めたため、多くの業界が再び苦境に陥っている。これに対応し政府は防疫抗疫基金の第5弾として総額35億7000万ドルの支給を発表。対象は社交距離措置の新たな引き締めによって直接影響を受ける業界・施設と関係者で、飲食店、美容サロン、フィットネスセンター、登録スポーツトレーナー、個人芸術従事者などが含まれる。また観光業、越境旅客輸送業など長期的に運営停止状態にある業界も含まれる。新たな支援金の額は第4弾の半分、個人は3分の2となるが、カバー範囲は拡大される。資格を持つ飲食店1万7600軒は店舗面積に応じて支援金が提供され、金額は5万~25万ドルとなる。
公共住宅での大規模な集団感染発生を受け、林鄭長官は22日、旧正月4日に社交距離措置を大幅に緩和できる可能性は低いと表明した。ただし社交距離措置を100%緩和しないわけではなく、ワクチンバブルを利用して適度に緩和することができると指摘した。政府は一貫してゼロコロナを目標としているが、完全に感染者をゼロにするのは難しいことを認めた。今回の感染の波は航空機クルー、検疫ホテル、海外から輸入したハムスターの3つの感染経路が関わっており、すべての要素をコントロールすることは不可能であることを反映している。
餐飲連業協会の黄家和・会長は、政府による社交距離措置引き締めと夜間の店内飲食禁止の影響を受けて旧正月前後の会食や新年会の予約がキャンセルされたことを挙げ、1~2月の業界の売り上げ損失は80億ドルに達するとの見込みを示した。黄会長は、2月の旧正月シーズンは飲食業界にとって鍵を握る時期で、3~4月は従来から業界の閑散期になると指摘。今年2月に商売が成り立たなければ3月から廃業の波が現れ、1カ月以内に500軒以上の飲食店が廃業しても不思議ではないとの見方を示した。このため黄会長は政府に対し、旧正月4日から夜間の店内飲食を午後8時までに限り再開することや、財政予算案で新たな給与補助を打ち出すよう求めた。
ゼロコロナ政策を見直しか
陳茂波・財政長官は1月14日、21年の経済統計の見込み数値を発表した。陳長官は21年第1~3四半期の域内総生産(GDP)伸び率が7%の大幅な成長を見せ、19~20年の2年連続の景気後退から好転したと指摘。21年10~11月の輸出と小売りは理想的で、第4四半期の経済も前年同期比でプラスとなることから、通年のGDP伸び率は6・4%に達すると言及した。今後の見通しとして「地元のコロナ流行が速やかに落ち着き、外部環境も顕著な悪化がなければ今年の香港経済は引き続き成長軌道に乗るが、回復スピードは依然として不確定要素に満ちている」との見方を示した。
シティバンクが発表した「22年香港経済と中国・香港株式市場の展望」と題するリポートでは、今年の香港のGDP伸び率は昨年の6・6%から3・8%に鈍化すると予測。主に基数となる昨年の数値が高かったことによるため、香港経済は依然として回復を持続していると強調した。旅行制限は間接的に地場消費を刺激し、年央には大規模な出入境回復が望めることから、今年の香港経済回復は消費が主導すると説明した。
国際通貨基金(IMF)の代表団が香港訪問後に発表した総括では、昨年のGDP伸び率見込みは6・4%、今年は3%と予測。政府の迅速な政策で経済回復がもたらされたが、各経済セクションの回復状況はまちまちで、個人消費は停滞。一部の原因はゼロコロナ政策と関係あり、観光業と緊密接触型業界は引き続き圧力を受け、小売業の就業人口も依然減少していると指摘した。香港は今年、中国本土との出入境を限定的に再開し、徐々に出入境の範囲を拡大するが、変異種ウイルスが出入境者再開のスピードに影響し、さらに個人消費回復の原動力が削がれるとみている。
IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は21日、世界経済フォーラム(WEF)年次総会で中国に対しゼロコロナ政策の見直しを求めた。ゲオルギエバ専務理事は、ゼロコロナ政策は中国でのウイルス流行を相当長い間抑制してきたものの、中国は世界の主要商品供給国であり、これら制限は中国と世界経済にとって負担となっていることが証明されたと指摘。オミクロンは伝染性が高いため、世界第2の経済大国である中国はゼロコロナ政策を見直し、新型コロナ流行に対する最良の方式を打ち出すよう促した。
ゼロコロナ政策については香港大学微生物学系のシッダールタ・スリダー臨床助教授が「すでに社会のすべての代償を凌駕しており、続けることは難しい」と指摘。政府は高齢者のワクチン接種率が低くいため感染が拡大すれば医療システムに影響することと、本土が感染者ゼロを出入境再開の条件にしていることからゼロコロナ政策を堅持しているが、ゼロコロナ政策を堅持すれば出入境が再開したとしても長くは続かず「出入境再開の基礎をゼロコロナとするならば水の泡となることは必至」と述べた。中央と香港の当局が出入境再開に向けてゼロコロナ政策を放棄することになるかが注目される。
(編集部・江藤和輝)
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