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新型コロナ第3波で陰り

経済回復の期待くじく


全国人民代表大会(全人代)常務委員会の会議で6月30日、「中華人民共和国香港特別行政区維護国家安全法」(香港版国家安全法)が通過し、即日発効した。施行後も香港への資金流入が続くなど香港経済には懸念されたようなマイナス影響はなかったものの、新型コロナウイルス(COVID—19)流行の第3波が押し寄せ再び経済の先行きに陰りが見られている。(編集部・江藤和輝)

陳茂波・財政長官は7月14日に出席したフォーラムの開幕式で「香港版国家安全法は投資マインドに影響し資金流出を招く」と言う人がいることを挙げ、「これは現実を顧みない主観的な憶測」と指摘。客観的なデータに基づくと4月から香港ドル相場は1米ドル=7・75ドルの香港ドル高傾向が続き、度々ペッグ制の上限に触れたため香港金融管理局(HKMA)が市場介入を行い、1000億ドル余りの資金が流入したと説明。香港株も上昇して単日で2000億ドルを超える売買成約高を記録したこともあるため、「香港では顕著な資金流出が起きていないどころか、資金流入が続いている」と述べた。

同じくフォーラムに出席した全人代常務委員の譚耀宗氏は、香港版国家安全法の制定を受けて多くの民主派の中核的人物が政界からの引退を表明したり、突然態度を変えて1国2制度を支持したり、香港独立派組織は解散を発表し、そのメンバーは海外に逃亡したことを挙げ「香港版国家安全法は香港の安定を守ることができる」と指摘した。

香港版国家安全法の可決に先駆けた6月29日、中国人民銀行(中央銀行)、HKMA、マカオ金融管理局は粤港澳大湾区住民の越境投資を便利化する「跨境理財通」業務を試行すると決定した。「跨境理財通」は粤港澳大湾区の住民が大湾区内の銀行で販売している資産運用商品に越境投資することを指し、購買主体の身分によって「南向通」「北向通」に分けられる。「南向通」は大湾区の中国本土住民(珠江デルタ9市)が香港マカオの銀行に投資口座を開設して、香港マカオの銀行が販売する投資商品を購入すること。「北向通」は香港マカオの住民が大湾区の本土の銀行に投資口座を開設して本土の銀行が販売する投資商品を購入すること。投資者の資格条件、投資方式、投資商品の範囲、投資者の権利保護、紛争処理などについて中央と香港マカオの関連機関が協議し、開始時期と実施細則を検討する。

陳財政長官はこの決定について「3地の金融業界がより広い市場を開拓でき、大湾区住民により多くの資産運用商品の選択肢を提供できる。人民元の越境流通・使用を促進し、香港は世界の人民元オフショア業務のハブとしての地位をさらに強化できる」とコメントした。金融サービス界選出の立法会議員である張華峰氏は7月13日、証券業界代表とともに特区政府財経事務及庫務局の許正宇・局長と会談。張氏は許局長に対し中小証券会社の苦境を緩和する対策として「跨境理財通」に参入させるなど4つの提案を行った。

米国の新型コロナ蔓延によって金融緩和が拡大する見通しが高まっており、非米ドル通貨に資金が流れ、人民元資産への資金流入も起きている。こうした状況を受け中国人民銀行の易鋼・総裁は6月に上海で開催された金融フォーラムで人民元の自由兌換に触れた。易総裁は「世界の資産配置において人民元資産は魅力が大きく、上海は国際金融センター建設の過程で人民元の自由兌換と資本取引での兌換を先行実施することができる」と語った。世界の機関投資家が上海で投融資活動を展開する便宜が図られれば中国経済にとってメリットになるとして、上海が開放的な人民元資産配置センターになるとの見通しを示した。著名経済学者の宋清輝氏も同フォーラムで「上海での人民元自由兌換の先行実施は近く進展が見込まれ、おそらく粤港澳大湾区よりも進展が早い」と述べ、マネーロンダリング、テロ組織の資金調達、脱税を防止する規定にかなってさえいれば貿易と投資の資金は自由に流通できると指摘した。

人民元国際化の契機

中国証券監督管理委員会の方星海・副主席も6月に開催されたフォーラムで人民元国際化の推進加速に言及。方副主席は「今後の外部からの金融圧力に対応するため、人民元の国際化はあらかじめ計画を練る必要があり、避けて通れない課題だ」と述べたほか、人民元の国際化はまだ緒に就いたばかりとして「今後10年は推進を加速しなければならない」と強調した。方副主席は人民元国際化の必要性として米ドルの不安定要素を指摘。中国の政府や国民が海外に保有する巨額の資産は主に米ドル資産であるが、米国の現在の通貨政策の下で米ドル資産の価値は大きな不確定性にさらされ、世界の金融システムもまた大きな不確定性に直面しているとの見解を示し、「中国の金融機関や実体企業の海外業務は主に米ドル決済体系に依存しており、そうした決済ルートが安全かどうかは大いに疑問を持つべき」と警鐘を鳴らした。

香港大学経済及商業策略研究所アジア太平洋経済合作研究プロジェクトは7月7日、香港経済の見通しを発表。香港経済が下半期に改善する可能性が高いと指摘し、第3四半期の域内総生産(GDP)伸び率は前年同期比でマイナス4・3%となるものの第1~2四半期に比べマイナス幅は縮小するとみる。ただし通年のGDP伸び率は第2四半期に発表した数値より2・5ポイント下方修正しマイナス5・5%と予測。第1四半期のGDP伸び率は過去最大の下落幅であるマイナス8・9%となったが、第2四半期はマイナス6・4%にまで下落幅が縮小すると予測している。

スタンダード・チャータード銀行も香港経済が第2四半期に底を打ったとみる。同行大中華区シニアエコノミストの劉健恒氏は7月17日、第2四半期のGDP伸び率はマイナス10・5%で底を打ち、下半期は昨年の基数が低いことと中国本土経済が香港経済回復を後押しするためGDP伸び率は第3四半期がマイナス6・8%、第4四半期がマイナス3%と下落幅が縮小すると予測。香港は開放的な資本取引、法制度、税制などの面で優位性を擁しているため経済発展を支えるほか、人民元国際化の面で香港には大きな発展の余地があると指摘した。

だが香港経済に回復の兆しが表れた矢先、新型コロナ流行の第3波が押し寄せた。陳財政長官は7月26日、公式ブログで「回復の兆しが見えていたビジネスの往来と経済活動も打撃を受けた」として状況は厳しいと形容。香港経済の回復には「もともとの予想より、さらに長い時間が必要かもしれない」と指摘したものの「過去数十年の香港経済発展が示しているように、危機には新たなチャンスが潜んでいる」と述べ、今後は全面的にイノベーション科学技術の応用を推進するほか、中国本土経済が地場市場での循環を主体とする新たな局面において香港企業の今後の位置付けと転身を考えることを提唱。企業に対して世界経済の大転換への適応を促した。

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