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インタビュー

株式会社CogSmart / 康希亞洲有限公司(CogSmart Asia Limited) 代表取締役CEO 樋口 彰さん

株式会社CogSmart / 康希亞洲有限公司(CogSmart Asia Limited) 

代表取締役CEO 樋口 彰さん 

プロフィール

202010月より、CogSmart Asia Limited.(香港) 董事・総経理。202110月より株式会社CogSmart 代表取締役CEOに就任。日本法弁護士・英国法弁護⼠(Solicitor in England and Wales)。オックスフォード大学修士課程修了(MSc)。東北大学加齢医学研究所分野研究員。経営者・弁護士・研究員の三足の草鞋を履く。

――日本での研究開発・事業内容についてお聞かせください。

株式会社CogSmart[本社:東京都千代田区、代表取締役:樋口 彰、瀧靖之(東北大学加齢医学研究所教授・同学スマート・エイジング学際重点研究センター副センター長)]は、2019年10月に東北大学加齢医学研究所発のスタートアップとして設立されました。香港子会社であるCogSmart Asia Limited.は、その1年後である2020年10月に設立しました。

CogSmartのミッションとして、共同創業者である東北大学教授の瀧が提唱する「認知症にならない、生涯健康脳」の実現に向けて、これまで積み重ねてきた研究結果を広く社会還元することを目指しています。

その1つとして、「BrainSuite(ブレーンスイート)」という、病院・クリニックの健診メニューである脳ドックなどに追加して「認知症にならない、生涯健康脳」を促すサービスを提供しています。

東北大学にて開発した高速・高精度の画像解析AI(人工知能)「Hippodeep(ヒポディープ)」

脳は30代・40代から年齢を重ねるごとに少しずつ萎縮していき、運動、睡眠、食生活、喫煙・飲酒習慣などの生活習慣が不良だったり、ストレス過多だったりすると、萎縮スピードが早まる傾向にあることが分かってきています。特に記憶力を司る海馬という脳領域は、体積の減少とともに記憶力などの低下を招き、アルツハイマー型認知症にまで至ると、海馬の顕著な萎縮(いわゆる、スカスカな状態)が認められるとされています。「MRIで脳を見れば、脳の萎縮程度や認知症リスクなど、すべて分かるのではないの?」と思う読者の方も少なくないと思います。しかし、病的な萎縮であればともかく、健康な方々に生じている脳の萎縮は極めて微細なため、専門医の目でも健康な方々に生じている脳の萎縮をとらえることは困難でした。ところが、この微細な変化をとらえることこそが、脳の健康状態の可視化において重要であることが分かっています。

BrainSuiteでは、東北大学にて開発した高速・高精度の画像解析AI(人工知能)を用いて頭部MRI画像を解析することにより、微細な海馬の萎縮を数値をもってとらえ、脳の健康状態を可視化することができます。その上で、脳の維持・改善のためのエビデンスに基づいた個別アドバイスを提供し、生活習慣の改善のための行動変容を促します。

BrainSuiteが提供するレポート(サンプル)

私は現在39歳ですが、同世代の友人からは「認知症の予防か。親にも受けさせよう」との声もいただきます。もちろん60歳・70歳以上の方々にも受けていただきたいですし、上記のとおり、30代からでも一度受けていただきたいと思っております。というのも、私自身、20代は激務による睡眠不足や、運動不足・食生活の乱れ・飲酒多量などもあり、ここ数年「8桁の電話番号も覚えられないし、記憶力が下がっているなぁ」と薄々は感じていました。

日本の帰国にあたって早速BrainSuiteを受けてみたところ、同世代・男性の中で、海馬の萎縮順位が最底辺レベル記憶力も低いとの判定が出て、サービス提供側の人間にもかかわらず、少なくないショックを受けました(苦笑)。

もちろんショックを与えることが目的のサービスではありません。海馬を中心に脳には健康になれる特性、具体的には「神経新生」という神経細胞が新しく生まれる現象により、体積が増加する特性があります。BrainSuiteの個別アドバイスをもとに、私自身も改めて脳に良い運動や生活習慣を意識的に行うなど、神経新生を起こして次回は汚名返上できるよう、行動変容を心がけています。ぜひ、多くの方々にもこの体験を味わっていただき、この先何十年も「認知症にならない、生涯健康脳」を維持して欲しいです。

――香港へ進出した背景についてお聞かせください

認知症の治療薬は症状緩和効果があるに過ぎず、根本治療薬は未だ世界のどこにも存在しません。それゆえ「認知症を如何に予防するか」は世界共通の課題であり、なかでも香港は世界でも有数の高齢社会として、認知症予防に対する強い関心があります。圧倒的な人口を誇る中国も、これからの超高齢化社会と認知症に対しては強い危機感を有しています。

香港進出の最大の理由は「将来的には、広東省・香港・マカオグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)(以下、GBA)をはじめ中国本土への展開なども考えており、香港が最初の進出先として適していると判断した」という点です。他方で、事実上の理由として、共同創業者の瀧らをよく知っていた私が香港にいたことや、香港サイエンスパークの存在が大きかったと言えます。

――科学技術園(サイエンスパーク)に入居した経緯についてお聞かせください

私が香港で仕事をしている中、幸運にも政府系イノベーション促進機関である香港サイエンスパーク(香港科學園)の幹部をご紹介いただき、バイオテクノロジー系スタートアップ向けの補助金プログラム「Incu-Bio」への申請を薦められ、2021年7月、同プログラムに日系企業として初めて採択されました。

研究開発関連費に対して最高600万香港ドル(約9,900万円、1香港ドル=約16.5円)の補助があるだけではなく、メンターによる様々なアドバイスを得たり、ここでしか得られないネットワーキングができたりする等の特典があります。

2019年の民主化デモを皮切りにコロナも続き、香港では暗いニュースが多く取り上げられがちですが、ビジネス・研究面では魅力的な政策やニュース等が増えています。

特に、研究開発や臨床試験実施の面では、GBAには大きな注目が集まっています。

HKTDC主催「Asian Financial Forum 2022」にてアジア代表ヘルスケアスタートアップ企業として登壇

最近のHKTDC(香港貿易発展局)の記事(https://hkmb.hktdc.com/en/h7afnglj/inside-china/healthtech-fund-focuses-on-gba?utm_source=enews&utm_medium=email&utm_campaign=hkmb-edm)では、以下のような論評がされています。

“GBAにおける人材、投資資金、戦略的立地の融合は、香港を中心としたグローバルな医療技術エコシステムの発展のための機会の源泉を生み出している。

香港には、ヘルスケアの研究開発における拠点としての強みがいくつもある。例えば、香港国際仲裁センターは中国本土と国際社会の両方の裁判所から認められている唯一の仲裁センターである。香港の病院で行われている新しい治療法、薬剤や医療サービスはGBAでも行えるように規制緩和され、スタートアップ企業の香港からの北上戦略を加速させている

――今後の展望について聞かせてください。

「香港でBrainSuite受けられないの?」「香港や海外では脳ドックや頭部MRI検診はあってもわずかだし、高いので他にサービスはないのか?」といった質問はよくいただきます。現在、香港や他国の医療機関でも利用できるよう、海外医療機器の承認申請を行っており、また、誰でも受けられる簡易なサービスも開発中です。国や地域ごとにニーズは異なるため、それに併せてサービスの内容は変更していきますが、他方で東北大学の研究成果等をもとに「認知症にならない、生涯健康脳」を広めていくことは変わらずに進めたいと思っております。

「東北から香港、そして世界へ」日本初のサービスが広く展開させてより良い社会を作れるよう、これからも皆様に厚いご支援をいただければ嬉しく思っております。

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