プロフィール
東京大学工学部卒業。トヨタ自動車株式会社にて自動車部品のグローバル調達に従事、同時に多くの現場でトヨタ生産方式を用いた改善活動を実施。2014年に『空飛ぶクルマ』の開発活動『Dream On (旧CARTIVTOR)』に参画し、共同代表を務めた。2017年に独立、18年に株式会社SkyDriveを設立し、代表取締役に就任。
主な事業は、空飛ぶクルマと物流ドローンの開発・製造・販売・運航サービス。
――元々はトヨタ自動車でグローバル調達を行っていたそうですね。
スカイドライブを設立する前はトヨタ自動車に勤めていました。その頃からすでに空飛ぶクルマの事業開発活動をおこなっていました。有志団体で活動している「Dream On
(旧CARTIVATOR)」で、空飛ぶクルマ「SkyDrive」の開発を進めていました。
その後、スカイドライブを設立し、2018年には日本で初めて屋外で空飛ぶクルマの無人飛行試験を実施し、初フライトに成功しました。翌年には有人飛行試験を開始し、20年8月には有人機試験機SD―03で最高速度40~50km/h、最大飛行時間5~10分を実現しました。この成功は今後間違いなくビジネスになるという強い自信につながりましたね。
――空飛ぶクルマの最大の魅力は何でしょうか。
何と言っても魅力は「機動力」です。将来的には自動車と同等のサイズで、ヘリコプターのように垂直離着陸できる空飛ぶクルマが実現可能となります。また空飛ぶクルマは、滑走路や空港が不要なので、乗車場所から目的地へドアtoドアが可能となります。道路の混雑事情から離れ、快適に空の交通を利用してストレスフリーで移動する選択が新たな日常の生活に加わる時代がやってくるのです。
©SkyDrive
――――御社は大阪での空飛ぶクルマの実現に向け、大阪府と大阪市といった行政との連携協定を締結しました。どのようなことが期待されるのでしょうか。
経済産業省と国土交通省は官民協議会を設置し「空の移動革命」に向けたロードマップを策定しました。そのなかに25年開催予定の大阪・関西万博にて空飛ぶクルマの実運用や商用運航を大きく展開していく方針が盛り込まれています。
大阪府は空飛ぶクルマの社会実装に積極的に取り組んでいる自治体の一つであり、万博開催時には大阪ベイエリアでエアタクシーサービスを実施。同時にエアタクシーの実用化も検討しています。
そのため現在は、飛行ルートの選定や、料金体系などどういう仕組みが適切なのか、見極めようとしている段階に入っています。
これが実現すれば、広く一般の方に空飛ぶクルマの認知度が高まり、社会の受容性も高まると思います。
ほかにも、大阪府内の中小企業やスタートアップ企業との新たなビジネスマッチングを行い協業促進を図ります。
©SkyDrive
――空飛ぶクルマの実用化に向け、大きな一歩を踏み出していますね。こうした開発は新たな社会生活を生み出すだけでなく防災機能にもつながるようですね。
はい、空飛ぶクルマの実用化により、科学技術の発展や、防災機能も強化していきます。21年には豊田市と「物流ドローンの災害時活用及び社会実装促進に向けた協定」を締結しました。この背景には豊田市には山間地域の居住者が多く、大規模な地震や風水害等の災害によって道路が寸断された場合、救援物資の供給が難しいという課題がありました。
今回の協定によりスカイドライブは、災害時の豊田市の要請により物流ドローンを提供することとなります。機体は約30キロの荷物を運搬でき、着陸せずに荷下ろしすることも可能です。
昨今、大雨の影響で土砂崩れなどが増えています。こうしたなか被害を少しでも減らすためにも、孤立集落や被災地域へ救援・備蓄物資を迅速に送り届けることができます。
現在は、豊田市との協定ですが、将来的には広範囲にわたり、安心した生活を維持するため社会貢献をしていきたく思っています。
©SkyDrive
――昨年11月に香港貿易発展局主催の「第11回アジア物流・海事・空運会議」に参加されましたが、今後のアジアでの事業展開についてお聞かせください。
この会議は「回復力、俊敏性、持続可能性 グローバル・サプライ・チェーンの再構築」のテーマで、海運や航空貨物、物流、サプライチェーンマネジメント、技術革新のカテゴリーで考えるイベントであり、今回初めてオンラインにて参加させていただきました。
長引く新型コロナ流行のなかで、デジタル技術による生活やビジネス上の変革、地政学的要因の世界のサプライチェーン構築への影響など、チャンスとリスクの両面について世界各国の専門家たちが洞察や議論を交わしたもので、有意義な機会となりました。
香港は世界的な物流拠点です。この会議をきっかけに、多方面の関係者の方々から物流に関して重要かつ具体的な意見交換をさせていただいたことで、アジアの情勢への理解が深まりました。
――長引くコロナ流行により、特に中国では無人配達化が進むなど、ドローンが発達していますが、御社がもつ優位性をお聞かせください。
弊社の物流ドローンは、従来人が背負って運んでいた30キロ程度の重い荷物でも、人の代わりに運ぶことができます。物流業界において、人的負荷の軽減に貢献します。
また、弊社では顧客と丁寧にコミュニケーションを取ることを重視しています。現場ごとに異なる飛行環境をしっかり把握し、安全かつ確実に荷物を届けるための体制を整えています。
――今後のアジア展開での可能性についてお聞かせください。
現在日本で進めているサービス展開が定着した後、アジアへの展開も見据えています。私たちが今やっている、道が整備されていない山間部や、物流インフラの整備が不足している過疎地域での荷物運搬ニーズは、全世界共通で存在してると認識しています。

【筆者・楢橋里彩】NHK地方局キャスター、ディレクターを経て、中国大連電視台アナウンサーに。その後香港で『香港ポスト』にて企業トップやビジネスリーダーのインタビューなど担当。

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