
僕の名前は阿強(アキョン)、香港生まれ香港育ちの16歳の高校生。日本のアニメや漫画が大好きなんだ。香港島にお父さんとお母さん、お婆ちゃん、大学生のお姉さんの5人で暮らしているよ。お父さんは茶餐庁(チャーチャンテン)を経営していて、お母さんと叔父さんもお店を手伝っているんだ。

私は日本の福岡市内で行政書士をしている「とら子先生」こと大島香折です。事務所の名称が「虎子(とらこ)行政書士事務所」だから、私のことを「とら子先生」と呼ぶお客さんもいるの。専門は日本の在留資格・永住申請と帰化申請よ。アキョン、分からないことがあったら何でも聞いてね。
アキョン:前回、お父さんが日本でレストランを開くための在留資格の相談をしたよね。もしも潮州料理のお店だったら「シェフが必要だっ!」てお父さんが慌ててる。でも日本では求人を出しても見つからないと思う。
とら子:外国料理の調理師は「技能」の1号という在留資格が該当するので、申請要件を満たしているなら「在留資格認定証明書交付申請(認定申請)」をして、許可が下りれば日本に呼ぶことができるわよ。
アキョン:1号ということは2号や3号があるの?
とら子:「技能」の在留資格はその名の通り「熟練した技能を要する」ことが求められるの。だから調理師だけでなく例えばスポーツ指導者やソムリエ、パイロットもこの資格に該当するの。職種別に1号から9号までを設けていて、外国料理の調理師等は1号になる。
アキョン:9号まであるのか。その1号が調理師ということは、日本は外国料理の調理師の需要が多いのかな?
とら子:確かに「技能」の申請で最も多いのが1号の外国料理の調理師ね。特に中華料理とインド料理は多い印象があるけれど、年々、調理師の在留資格の審査も厳しくなっている印象を受けるわ。
アキョン:日本にはイタリアンやフレンチのお店も多いけど、中華料理とインド料理のお店も多いね。どこも外国からシェフを呼び寄せていたの?
とら子:そんなことないわよ。日本国籍で外国料理を学んだシェフもいるし、みんなが外国から来ているわけではないけれど、外国籍のシェフが増えて、日本で本場の味が楽しめるようになったのはうれしいことよね。
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とら子:それで話は戻るけど、香港にいるシェフを日本に呼ぶの?
アキョン:う~ん、今のお店にいるシェフが香港を離れるとお店の味が保てないから、それはできないって。そうなると新しく雇うことになる。
とら子:新しく雇用関係を結ぶ場合でも呼び寄せるための申請は可能よ。
アキョン:お婆ちゃんの故郷の潮州市で親戚が潮州料理のレストランを経営していて、そこのシェフに日本で働く気があるかどうか聞いてもらっているところだよ。
とら子:中国本土のシェフでも大丈夫よ。中華料理のシェフの場合、実務経験が10年以上必要だけど、中国の調理師学校で学んだ年数も含められるから、例えば2年間学校で調理を学んで、8年間実務経験がある場合でも要件を満たすことになる。
アキョン:だったら大丈夫。そのシェフは調理師学校を出てすぐにホテルのレストランで見習いを始めて、親戚のお店でも、もう10年以上働いているよ。親戚の話では誠実で料理の腕もいいって。
とら子:人柄や技術的なことは雇用側にとっては大切なことだけど、在留資格は書面審査だから、まずは調理師学校の「卒業証明書」と働いていた企業やお店からの「在職証明書」の原本で実務経験年数を立証しなければいけないわ。そして「調理師免許」と本土の世帯状況等が分かる「戸口簿」のコピーが必要よ。雇用側は、法人であれば「履歴事項全部証明書」、直近の「決算文書」か新規事業なら「事業計画書」、「雇用契約書」と「雇用理由書」等を準備して。雇用理由書にはなぜこのシェフが必要なのかを現状を交えて説明するので、そこにシェフの人柄や料理の腕前、どういう経緯で雇い入れることにしたのかを記載しておくと審査官に伝わりやすいと思う。
アキョン:すごくたくさんの書類が必要なんだね。調理師免許や戸口簿はコピーでいいの? それだと偽造できそうだね。
とら子:そうね。調理師免許や戸口簿といった再発行が難しい証明書はコピーの提出でいいことになっているけれど、私は申請時に原本を提示するか「公証書」の提出をお勧めしているわ。
アキョン:お父さんの方の書類は会社を作ってからだね。まだ、会社もできていないよ。
とら子:雇用側の提出書類は会社の規模によって異なるけれど、「技能」を含む就労系の在留資格は「本邦の公私の機関との契約に基づいて…」という要件があるから、日本にある会社等と雇用契約を結ぶことが大前提なの。だからシェフの申請は法人の設立後になるけれど、申請段階では労働条件を明らかにできればいいので雇用契約書ではなく、「労働条件通知書」を提出してもいいの。就労系の報酬要件は、日本人が同様の職務に従事した際に受ける報酬と同等額以上であることよ。
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とら子:ところでずっと「潮州料理のお店だったら…」って言っているけど、潮州料理じゃなかったらどんなレストランを開くつもりなの?
アキョン:カフェみたいな茶餐庁。お父さんも料理ができるから、軽食とドリンクをメーンにして自分が調理すればシェフはいらないんじゃないかって。
とら子:お父さんは「経営・管理」の在留資格を申請する予定でしょ? 「経営・管理」は調理師の仕事をする資格ではないから、日常的に厨房で調理をしていると資格外の活動違反に問われるわよ。
アキョン:じゃあどうすればいいの?
とら子:その場合は調理スタッフを日本で雇うべきね。専門性の低い調理ならレシピをマニュアル化すれば誰でもすぐに調理ができるでしょう。
アキョン:接客するのもお父さんはダメなの?
とら子:経営者は会社をどうやって発展させ、利益を出すべきかを常に考える立場にあるわけで、レストラン経営とはいえホールで日常的に接客を行うことが「経営・管理」の活動とは言い難い。
アキョン:僕からお父さんに忠告しとくよ。そういえば、日本では飲食店の営業許可を取るには保健所で講習を受けないといけないんだよね。お父さんは日本語できないよ。
とら子:一店舗に一人以上の食品衛生責任者が必要よ。日本語が不得手でも講習を受けて資格を取り、保健所の検査も経て営業をしている外国人経営のお店はあるわよ。
アキョン:お父さんはそれをお姉さんにさせようとしている。お姉さんは日本語ができるから、お姉さんたちの家の近所にお店を開いて、ホールの仕事やアルバイトの面接もお姉さんに任せるって。お姉さんは「もっと国際的な仕事がバリバリしたいのにっ」て嫌がってる。
とら子:やっぱりお姉さんを追いかけていく感じね…。
アキョン:僕もそう思う。
とら子:日本では厚生労働省によるHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度がスタートしているから、飲食店を新規に開店する場合や飲食店営業許可を更新する際はこれまでとは少し変わってきているの。だからお姉さんに手伝ってもらえると心強いだろうけどね。
アキョン:お父さんは貿易もやる予定だから、「国際的な仕事もバリバリできるぞ」ってお姉さんを説得しているけど。
とら子:確かに国際的なファミリービジネスね。
アキョン:ところで、潮州料理のシェフは日本に家族も連れて行きたいって言ってる。できるの?
とら子:もちろんできるわよ。申請して許可が下りればね。
アキョン:じゃあ次回はそれを教えてよ。でないと日本に行かないって。
とら子:分かったわ。次回は「家族滞在」の在留資格の話をするね。
(この連載は不定期に掲載します。)
ワード解説
HACCP(ハサップ):2021年6月から完全義務化が始まった食品衛生管理計画の作成基準。原則、すべての食品等事業者(食品の製造・加工、調理、販売等)は、従来の「一般的な衛生管理」に加え「HACCPに沿った衛生管理」の基準に基づいた管理を行わなければならない。具体的には衛生管理計画を作成し、従業員に周知徹底を図る、必要に応じて清掃・洗浄・消毒や食品の取扱い等について方法を定めた手順書を作成し、衛生管理の実施状況を記録して保存するなど、事業者の食品衛生管理の徹底がこれまで以上に求められる内容となっている。

【筆者紹介】
大島 香折(Oshima Kaori)
「虎子行政書士事務所」代表
特定行政書士・出入国在留管理庁申請取次行政書士
元・香港ポスト編集者、在職中に香港の永住権を取得。帰国後は主に行政の中国語通訳・翻訳者として活動するとともに、福岡出入国在留管理局総合相談窓口で中国語担当の相談員として在留資格や永住申請に関する相談を受ける。2020年に行政書士登録、福岡市内に「虎子行政書士事務所」を開設。専門は日本の在留資格・永住・帰化申請等。
メール、公式LINEで日本語・中国語で相談を受け付けています。
アドレス:oshima@torako-office.com(可中文諮詢)

Web:https://torako-office.com/

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