プロフィール
香港出身。1999年、英国ケンブリッジ大学工学部卒業後、同大学大学院に進学し、2000年、土木工学修士課程修了。同年、ケンブリッジ大Overseas Society フェローの称号を授与される。2000~01年に来日し、早稲田大学国際部日本経済文化研究課程修了。01年に香港貿易発展局入局後、国際協力部中国・東アジア課勤務、04年に製造業促進部アシスタントマネジャー(中東地域担当)、07年4月に東京事務所長、08年11月に大阪事務所長、11年10月に国際協力部新興市場課長、17年4月に韓国代表(ソウル駐在)を歴任し、21年2月に日本首席代表に就任。
――今年、香港は返還25周年を迎えました。「一国二制度」のもと、国際ビジネスセンターとしての香港の展望についてお聞かせください。
1997年以降、香港は輝かしい発展の歩みを遂げ、世界の最も重要な経済センターの1つとしての地位を築き上げました。「一国二制度」は、香港の継続的な成功と繁栄に必要不可欠なシステムです。そして香港の開放的かつ自由な経済は、強固な制度的枠組み、モノとカネの自由なフロー、シンプル且つ低率の税制度、多文化で国際的な優秀な人材や、法の支配に支えられています。これらの優位性は、昨今の環境変化にあっても、進化し続ける香港のファンダメンタルズの強さを物語っています。
香港と日本は、貿易や投資などの経済面において、長きにわたり緊密なパートナー関係を構築してきました。2021年、香港の主要貿易相手国・地域の中で日本は第6位の相手国であり、貿易総額は約500億米ドル、前年の貿易総額から11.6%増加しています。香港は2010年に日本との間で日港租税協定を締結し、両地域間の投資と人材の安定的な流れを促進していますが、数多くの日系企業が成功の足跡を残してきました。事実、香港に設立された外国企業の中でも、日本企業の数は、中国企業に次いで2番目に多く、2021年時点で1,388社が登記されています。加えて、8,600万人の人口を誇る広東・香港・澳門大湾区(GBA)の購買力を背景としたマーケットの勃興は、日本企業にとっての新たなビジネスチャンスをもたらすでしょう。
香港はパンデミックなど世界的な課題に直面しながらも、日本企業の中国本土や東南アジア諸国連合(ASEAN)市場参入する際の優良な環境を、今後の25年提供し続けられると私は、確信しています。
――香港からみた大湾区におけるビジネスチャンスと、香港の競争力強化のための計画について教えてください
諸外国からの中国投資のゲートウエーとしての香港の役割は、廃れることはありません。それは、広東・香港・澳門大湾区(GBA)構想における橋梁や鉄道網などのハード面での連結機能にとどまらず、金融等の高度人材を香港から華南地域へシフトするなど、ソフト面での地域の一体化による市場拡大を図る動きが進められていることからも言えるでしょう。香港の従来の強みである東西文化の結節拠点という役割に加え、国際空運ハブ、技術移転ハブ、知的財産の取引センターとしての機能が加わって、新たな産業育成がなされようとしています。とりわけ、大湾区構想の中核をなす香港と深圳は、合同してイノベーション・テクノロジーパークを建設、世界各地から先端企業や研究・教育機関を誘致して、研究開発体制の充実化を図ろうとしています。さらには、スタートアップを積極的に支援するプログラムを導入しているなど、域内のイノベーション&テクノロジーセンターとなるべく、中国本土政府から期待されています。
――日本と香港の貿易関係はパンデミックによって変わりましたか。
コロナ禍で小売業、飲食店など少なからず打撃を受けた香港。にもかかわらず香港における日本産食品・農林水産物に対する需要は拡大中で、コメ類、鶏卵、果物、酒類などの輸出の増加が顕著です。2022年度の1-4月(累計)の農林水産物・食品の輸出額は582億円にも上りますが、香港人の日本商品への愛着や信頼が厚いこと、ビジネス拡大が顕著な傾向は、ドンドンドンキやシャトレーゼの活況ぶりからも証明されています。
――香港を活用することのビジネスメリットとは何でしょうか。
香港の主な機能や優位性は、香港と日本を含めた世界中のビジネスを相乗的かつ加速的に、活性化の後押しをしています。香港貿易発展局のプラットフォームは、ビジネスの最新情報を提供するなど、企業・団体の新規市場参入を支援しています。
香港政府は、2050年カーボンニュートラルの実現目標を掲げており、サプライチェーンのESGコンプライアンス、グリーンビルディング、エコテックなどさまざまな関連サービスへの大きな需要も見込まれています。金融機関は、国際資金調達のデューデリジェンスにおいて、プロジェクトのESG基準に対する適合性を確認する重要な役割を果たすことになります。香港政府と香港貿易発展局共催による「アジア金融フォーラム」では、ESGに関する専門家や香港グリーンファイナンス協会がワークショップを開催、ESGの世界動向や基準について議論するなど、最新情報を提供しておりますので、ぜひご活用ください。
近年、日本のエレクトロニクスメーカーは医療分野の開拓に傾注し始めています。日本の卓越した「モノづくり」技術は、急速な高齢化の進展に伴い、今後さらにヘルスケア・医療産業で活かされることになるのではないでしょうか。世界のヘルスケア市場は、2024年までに年率4%成長するという予測があることからも、香港・中国のヘルスケア市場にも十分な伸びしろがあることは疑いの余地がありません。香港貿易発展局主催の国際展示会「ヘルスケア・メディカルフェア」および国際会議「アジア・グローバルヘルス・サミット」ではこれらの医療の発展・市場動向が入手できるに素晴らしいプラットフォームになるものと確信しています。
第一回「アジア・グローバルヘルス・サミット」
――新たに生まれた日本と香港のビジネスコラボレーションについてお聞かせください。
香港は、ICT分野においても世界最先端のインフラを有し、より多くの海外企業にとってのビジネスプラットフォームとして進化を遂げています。WIPO(世界知的財産機関)による2021年度の世界の科学技術クラスターランキングでは、「香港・深圳・広州」は「東京・横浜」に次いで2位につけていることからも香港の強みがお分かりいただけると思います。また、2021年時点の香港のスタートアップ企業数は、前年同期比12%増の3,755社で、その勢いは留まるところを知りません。
例えば、今夏、東京駅に完成予定の超高層ビル街区「東京ミッドタウン八重洲」には、香港のデリバリーロボット「ライスロボット」が導入される予定です。神奈川県では、香港発のスタートアップEcoinno Japan社が開発したプラスチック代替天然素材容器を用いた生分解性循環システム実証事業が始まっています。これら香港が生みだした革新的技術は、今や日本の各所で実用的に取り入れられるようになっていますが、香港の高度で充実した研究環境は世界からも注目されているのです。
左:ライスロボット Rice Robotics社(香港)
右:環境配慮型新素材GCM(R)製のランチボックス Ecoinno Japan株式会社
一方で、医療分野での日本香港間のコラボレーションも活発に見受けられるようになっています。患者の症状に応じて最適の病院や医師をオンライン予約できるプラットフォームをワンストップで提供するFindDoc社は、オムロン社と連携し、医師が高血圧患者のカウンセリングを遠隔で行えるようにするクラウド技術を開発中です。
ライセンス分野においても、アジアにおけるアニメやキャラクター等の商品化や取引ハブとしての香港の成長性に着目した伊藤忠商事株式会社は、2021年9月、中国本土でライセンスビジネスに強みを持つPPW社と、世界的人気キャラクター「ムーミン」および北欧コンテンツを取り扱うRBS社、MC社と共に、アジア向けにライセンス事業を行う合弁会社RBAを設立しています。
デザイン業界でも、日本と香港の多彩なコラボ―レーションが繰り広げられていますUNION社(日本)は、香港貿易発展局の展示会「デザインインスパイア」を通じて香港のHintegro社とユニークなコラボレーション作品を手掛けました。日本の伝統的なデザインは香港の幅広い世代から支持されており、数々の香港の建築デザイナーが、「和」をテーマとした湯舟などの日本の伝統文化やスギ・ヒノキなどの日本産木材を取り入れた建築・デザイン作品を創出しています。
和を取り入れたデザイン ― Hintegro社(香港)
ハンドル ― UNION社(日本)とHintegro社(香港)のコラボレーション作品