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香港会計・税務

【香港会計・税務】中国市場におけるカーボンニュートラルの動向及び企業の取り組みについて

産業革命以降、世界で石炭や石油、天然ガスなどの化石エネルギーの使用量が増え、CO2 の排出量は急増し、地球温暖化が問題となりました。地球温暖化による影響は、海面上昇や洪水、異常気象、生態系の変化などを受け、これらに関連する財やサービスへの影響やインフラの機能停止等様々なリスクが挙げられます。

2015 年にパリで開催された COP21では、2020年以降の気温変動問題に関する国際的な枠組みであるパリ協定が合意されました。これを受けて、中国政府は2030年までにCO2排出量のピークアウト、2060年にカーボンニュートラルを実現することを目標に掲げています。また、香港政府も2050年までにカーボンニュートラルの達成に向けて努力する旨の表明をしています。こういった環境下で、日系企業が中国市場において勝ち抜くには、カーボンニュートラルに向けた取り組みが重要な戦略のひとつとなってきています。今回は、中国市場におけるカーボンニュートラルの動向及び企業の取り組みについて解説したいと思います。(デロイト トウシュ トーマツ香港事務所 飛田 勇人)

中国市場におけるカーボンニュートラルの動向

中国は世界最大のCO2排出国であり、その排出量は世界全体の約30%を占めており、中国の動向に世界的な注目が集まっています。中国においては、2020年9月に習近平国家主席が国連総会において、上述したカーボンニュートラルに関する目標を宣言し、トップダウンで改革を進めています。

2021年2月には、「炭素排出量取引管理弁法」が施行され、同年7月より全国炭素排出量取引市場が正式に運営が開始されています。当該市場においては、対象企業に割り当てられた温室効果の削減量を「クレジット」として発行し、企業間でクレジットの売買が行われます。炭素排出量取引市場は、欧州で先行していますが、米国では州レベル、日本では東京都と埼玉県がそれぞれ独自の制度を運営するにとどまっています。その中で、今回の中国の炭素排出量取引市場は、発電業界の重点排出企業約2000社が組み込まれ、世界最大規模の炭素排出量取引市場となりました。

また、2021年10月には、炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラル活動に取り組むことに関する意見及び2030年までの行動計画が公布されており、今後の中国のカーボンニュートラル政策はこの意見と行動計画に従って推進されていくことになります。

当該意見においては、第一段階において、2025年までに重点産業のエネルギー利用効率を向上させ、堅固な基礎を構築し、第二段階として、2030年までに経済社会システム全体のグリーントランスフォーメーションを進展させ、CO2のピークアウト、第三段階として、2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指しており、各段階において、定量的な目標も掲げられています。

また、2030年までの行動計画においては、5年ごとの計画が策定されており、2025年までに石炭消費の増加の抑制、新型電力システムの構築等の促進、2030年までにグリーン・低炭素なエネルギーシステムの確立するとともに、非化石エネルギー消費比率をさらに高め、石炭消費を段階的に減少させることで、CO2のピークアウトを達成することになっています。

中国のエネルギーの消費構造は、石炭消費が最も多く、次いで石油となります。そのため、中国政府が掲げている目標実現のためには、上述した行動計画に記されている石炭消費の抑制が重要なカギとなります。石炭消費の抑制のために、エネルギーの供給段階では、電力部門に対して、石炭火力発電の新設を制限し、エネルギー効率が低い発電設備の廃止、またエネルギー構造の改善を進めています。

エネルギーの利用段階では、産業部門に対して改善を求めており、特に鉄鋼産業においては、石炭を使用しない電炉の利用拡大と水素を利用した技術開発等を進めています。中国の第二の消費エネルギーである石油は、自動車、船、飛行機等の運輸・運送産業で主に消費されますが、新規の運用設備に対して、電力や水力などをエネルギー源とするクリーンエネルギー設備の導入目標比率の設定等を行っています。石炭や石油の消費の抑制と削減を進めるとともに、再生可能エネルギーの開発、ハイブリッドエネルギーの活用、廃棄材料の循環利用等によるエネルギー効率の向上、植林や森林生態系の回復による炭素除去を図り、脱CO2を目指しています。

企業の取り組み

こういった外部環境の変化がある中、在中企業においては、自社の事業活動に伴う直接排出や事業活動の製造段階における電力消費といった間接排出に留まらず、調達する原材料、製品やサービスなどのサプライチェーン全体にまで、カーボンニュートラルに向けた取り組みを進めることがスタンダードとなってきています。特に、中国国有企業においては、既にサプライチェーン全体の取り組みを積極的に推進しており、調達先及び出荷先も含めた炭素削減の定量化管理、組織再編やM&Aによる垂直統合などを行いながら、活発に取り組みを行っています。脱炭素に向けた取り組みとして、まずは自社のCO2排出量を把握し、スマート製造への移行、バリューチェーンの最適化、炭素排出に係るメカニズムの構築等を行うことが必要となってきます。

 

最後に

自社に限らず、サプライチェーン全体においても、CO2排出量が重視される時代となってきており、日系企業は、中国政府が主導しているカーボンニュートラルの方針を日々確認し、自社の経営戦略に反映するとともに、中国国有企業が中心となるシステムに入り込めるよう、必要な対策を講じることが重要となります。

 

筆者紹介

飛田 勇人(とびた はやと)

デロイトトウシュトーマツ香港事務所 日系企業サービスグループ マネジャー
日本国公認会計士 / 米国公認会計士

2011年に有限責任監査法人トーマツに入所。製造業、情報システム産業、 小売業等の監査業務に従事するとともに、J-SOX助言指導業務、IPO支援、IFRS助言指導業務などのアドバイザリー業務に従事。2020年にデロイトトウシュトーマツ香港事務所に赴任し、日系企業の監査業務の支援、ビジネスの成長をサポートのために各種アドバイザリー業務の提供を行っている。

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