トランプ米大統領が自ら仕掛けたイラン戦争が泥沼ハマった状態で、5月14日、15日の日程で米中会談が開催されました。イラン戦争の為、米国側の要請により当初の予定からは1か月遅れの開催となりましたが、世界の国々が注目する中、どのような話し合いが行われたのでしょうか? また私達の生活にどのような影響があるのでしょうか?(ICGインターナショナル代表・沢井智裕)
1 米株式・債券市場は失望売り
4月15日の米株式市場はダウ株価指数が537ドル安(-1.07%)、ナスダック総合株価指数も410ドル安(-1.54%)と下落しました。また債券市場も失望売りから米10年物国債の利回りは、一時4.6%台に乗せ、年内の「利下げ期待」は大きく遠のきました。
米中会談における成果を期待していた金融市場にとっては十分な成果が得られなかったと判断されました。株式市場が気に掛けているのは、イラン戦争の際に閉鎖されているホルムズ海峡の航行再開でした。ホルムズ海峡が閉鎖されていることによって原油価格が高騰し、アメリカの物価が上昇しています。アメリカの3月のインフレ率は前年同月比+3.3%から4月も同+3.8%と消費者物価は大きく上昇しました。
原油価格の高騰が様々な製品や商品のコストを押し上げて今後は一般国民・市民の生活を圧迫し始めるのです。いえ、もう圧迫しているのです。米中会談でアメリカ側はホルムズ海峡における原油輸送タンカーの安全な航行を実現させる為に、イランと親密な関係にある中国の力添えを期待していた訳です。そして原油価格が下落すれば、車社会のアメリカ国民のガソリン代の負担も軽くなり、トランプ氏の11月の中間選挙に有利に働くというシナリオを描いていたはずです。ところがこのイラン戦争は、トランプ氏がイスラエルのネタニヤフ首相にそそのかされて安易に始めた戦争です。欧州の同盟国がそっぽを向いている折、中国が無償で手を貸すはずもありません。
実際の会談でのメインポイントは、中国側からは「台湾問題におけるアメリカの譲歩」、そして米国側は「イラン戦争におけるホルムズ海峡の航行再開」が焦点であって、もともとこの会談はトランプ大統領には不利になるのは間違いありませんでした。しかもトランプ氏にはカードがありません。米企業のトップを同伴させての米中会談も中国側の関心は薄かったはずです。
2 米中会談、まずは地ならし
中国の習近平国家主席は会談の冒頭から「中米関係において最も重要な問題だ」と述べていますし、その対処を誤れば「中米関係全体を非常に危険な状況に追い込む」と強調も」し台湾問題について慎重に対処するよう求めています。裏を返せば、「米中会談=台湾問題」でアメリカ側の譲歩を引き出したい訳です。トランプ大統領に「台湾の独立は認めない」といった言質を取りたいのです。今回の会談では表立っては、そのような発言はなかったものの、会談のオフレコではなんらかの話が出ているものと思われます。
トランプ氏は案の定、米中会談での自身の得点を強調しています。「大豆の輸入、液化天然ガス(LNG)の輸入拡大、ボーイング社製の航空機を200機購入」を中国側が受け入れました。しかし中国にとってはアメリカから見返りに「台湾における譲歩」と引き出せれば、非常に格安な取引です。ボーイング社の航空機など100機でも200機でも発注するでしょう。メディアは記事にしたいので、米中会談を消化不良といったニュアンスで報じていますが、米中共に功を焦る必要はありません。2回目の米中会談は9月24日にアメリカのワシントンで予定されていますし、計4回行われる予定ですから、今回の米中会談は、習近平国家主席とトランプ米大統領の9年ぶりの再会で、次回以降の会談へのオリエンテーションといったところでいいのではないでしょうか?
3 それでも米中会談ではっきりした事
もちろん中国側の要望は「台湾の独立に反対」という言質を引き出したいこと。アメリカ側の建前は「貿易拡大」で、本音は直面している「ホルムズ海峡の再開」を通じた原油価格の低下と安定です。トランプ大統領は、「昨今の物価高はバイデン前政権がしかるべき措置を施さなかったからだ」と大見えを切り、「自身が大統領になったら、物価はすぐに沈静化する」と豪語していただけに、ガソリン価格の高騰をアメリカ国民は冷ややかな目で見ています。従いましてアメリカ国民のみならず、日本も香港も引き続き、物価高に悩まされるということです。またイラン戦争は終わりません。
4 イラン戦争はまだまだ続く
まずここでクリアにしなくてはならないことは、イラン戦争はアメリカの戦争ではなくて、イスラエルの戦争です。アメリカが停戦を要求したところで、イランもイスラエルもその手を緩めることはないでしょう。イスラエルの真の狙いは「体制の転換まで」であってアメリカが考えていたような「核開発の断念」だけではありません。
トランプ大統領はネタニヤフ首相にまんまと嵌められたのでした。イスラエルにとっては、「中国の台湾問題」と同じぐらいに「イラン問題」は重要なのです。
2020年以降、イスラエルはアラブ諸国と国交を正常化させてきました。そして最後の中東の大国・サウジアラビアと国交正常化交渉を始めたところで、イスラム過激派のハマスがイスラエルに対して奇襲テロを行い、サウジアラビアとの国交正常化は暗礁に乗り上げてしまったのです。仮に中東でイスラエルとアラブ諸国の和平が実現してしまうと、寄付や援助がなくなり、明日からテロ集団は「失業者」となってしまうからです。ヒズボラやハマスの幹部にとっては「中東和平は最悪のシナリオ」です。
従いまして、アメリカがイランをどのように説得しようが、どのように経済制裁を解除しようが関係がありません。ユダヤ教のイスラエルとイスラム教シーア派の問題であるからです。イスラエルに取りましても何十年、何百年に1度のイランの体制転換のチャンスをそうやすやすと見過ごすことはありません。つまり原油価格を始めとしたエネルギー価格の高止まり状態が続きます。私達は今一度、将来の更なる物価高に備える必要がありそうです。
(資料)アメリカの物価の推移(CPI)
https://tradingeconomics.com/united-states/inflation-cpi
「ちょっとお笑い、アトム&ジュエリー」
ジュエリー:トランプ氏の強みは、彼の言動を誰も信用していないってことよね?
米中会談での交渉も本当に中国側は信用しているのかな?
アトム: まあ確かに、逆に言うとそれがとトランプ氏の強みやな。とりあえず
米中会談ではリップサービスだけしておいて、3年待てば時効やからな。
ジュエリー:トランプ・イリュージョンね。
アトム: ハハハ、でも誰も信用してへんて、すごない?
ジュエリー:ただアメリカ国民はまだ30%超の人たちが信用しているのよ。
アトム: めっちゃ、おめでたい人達やなあ~。
ジュエリー:だってアメリカは国会でもUFOが取り上げられてるでしょ。
アトム: いや、最近は、「UAP(未確認異常現象)」って言うらしいで。
ジュエリー:宇宙人、見たことある?
アトム: ないわあ。お化けやったら見たことあるけどね。いや音だけやけど。
ジュエリー:大阪って心霊現象で有名な場所が多いよね。滝畑ダムとか、犬鳴山とか。
アトム: よう知ってるやん。千日前のあたりとか。
そういう意味では、トランプ氏もこの類のUAPかあ~。UMAか。
ジュエリー:一応、トランプ氏も国家元首だからね。あまり変なことを言わないように。
アンタ、地獄に堕ちるわよ。
アトム: その顔と金髪、怖いわ。
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
香港在住。
1995年にイスラエル人パートナーと共同経営でICGグループを設立。プライベートバンキングとファンドマネジメントを中心とした金融事業に精通。
ヘッジファンドやエクイティファンドを運用し、経験値と実績を積み重ねる。2022年には金融事業の一部を香港の上場企業に売却。
香港では米系華僑のアトラス・キャピタル社のレスポンシブル・オフィサーに就任し、華僑系の資産運用も一任されている。
香港から見た国際経済・国際金融についてユダヤ・華僑富裕層から得た情報を元に、日本国内では独自の切り口で上場企業や各団体の依頼で講演活動を行う。
ドラゴンゲート株式会社の海外特別顧問、投資兼財務戦略アドバイザー。
著書多数。
https://www.icg-overseas.com/blog
日刊香港ポストは月曜から金曜まで配信しています。ウェブ版に掲載されないニュースも掲載しています。時差ゼロで香港や中国各地の現地ニュースをくまなくチェックできます。購読は無料です。登録はこちらから。





