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トランプ関税、実は香港に有利

米国のトランプ政権が中国をはじめとする世界に対して起こした貿易・関税戦争は香港に不確実性をもたらしている。だが実のところ香港の対米輸出依存度は比較的低く、香港がゼロ関税を維持する限り貿易ビジネスのメリットは高まり、米国留学が難しくなることから人材の獲得に有利となり、東洋の台頭と西洋の衰退によってチャンスが広がる見込みだ。(編集部・江藤和輝)

■香港総商会、米国訪問を延期

香港総商会は4月、関税戦争の影響により米国訪問を延期することを決定した。立法会議員で香港総商会理事も務める林健鋒氏は、多くの欧州人が香港を通じて中国本土やその他の市場に参入したいと希望し、「東の台頭と西の衰退」の状況がすでに生じていると考えているため、ビジネス界は今年後半に欧州訪問を検討していると明かした。林氏はまた、関税戦争により地元企業が大きな打撃を受け、事業に大きな影響が出ていることを米国のビジネス界から聞いたとも述べた。

香港総商会は当初、4月末にワシントンD.C.や米国の他の地域を訪問し、地元の経済界と会合する予定だったが、訪問を延期することを決定。林氏は4月21日のラジオ番組で、中国と米国間の不安定な経済貿易環境と高い政策不確実性のため、会議の後、米国訪問を延期することを決定したと説明。米国の関税引き上げに対し、林氏は国の対策を全面的に支持する一方で、今後2~3カ月ですべての問題が解決できるわけではないとみている。下半期の状況を注視する必要があり、総商会は方針を決定した後、米国を訪問する時期を再度検討するという。
関税戦争の下、真っ先に打撃を受けているのは航空業界である。香港郵政とDHLが相次いで米国向けの指定航空郵便物の受け入れを停止したのに続き、地元航空会社も貨物輸送事業に多くの不確実性がもたらされ、乗客の旅行ニーズも変化し、運航コストが増加し、サプライチェーンに圧力がかかっている。識者によると、香港から米国への航空貨物のうち携帯電話やその他の品目が比較的大きな割合を占めているが、関税戦争が続けば輸送コストに悪影響が及び、航空会社は追加コストを吸収することが困難になるかもしれないという。さらに中国本土の航空会社は続々とボーイング機の受け入れを拒否しており、新たな目的地への飛行頻度が需要に応えられない可能性もある。

特区政府統計処は5月2日、2025年第1四半期の域内総生産(GDP)速報値を発表した。2025年第1四半期のGDPは前年同期比で実質3.1%増、2024年第4四半期の2.5%増から伸び率が拡大。2025年第1四半期の商品輸出総額は前年同期比で8.7%の実質増加を記録し、2024年第4四半期の1.3%から大幅に伸び率が拡大した。商品輸入総額は2025年第1四半期に実質7.4%増となり、2024年第4四半期の0.4%増から伸び率が拡大した。

政府報道官は今後の見通しについて、4月上旬の米国の輸入関税の大幅引き上げにより世界的な貿易摩擦が激化するなど、世界経済の下振れリスクが高まっていると指摘。貿易政策の大きな不確実性は国際貿易の流れと投資マインドを抑制し、香港経済の短期的な見通しに不安をもたらすとみている。しかし中国本土の経済は引き続き着実に成長しており、経済成長を促進し、より多様な市場を開拓するための政府の各種措置が香港のさまざまな経済活動を支えることになるとの見方を示した。

■香港の対米輸出依存度は低い

香港貿易発展局(HKTDC)の范婉児・研究総監は4月26日、2018年以降、米国は中国の対米輸出の約3分の2の商品に関税を課しているものの、中国の世界輸出シェアは依然として増加しており、2018年の12.7%から2023年には14.1%になると指摘。香港の対米輸出は2017年から2024年の間に10%減少したが、中東やASEAN諸国からの需要増加により、香港の輸出全体は17%増加したと述べた。現在、香港の対米輸出の約半分が関税の対象となり、香港全体の輸出の約3%が影響を受け、対米輸出への依存度が低下するという。このため現在の貿易情勢が香港企業のビジネスに及ぼす影響は小さいとの見方を示した。

今回の米国の動きが世界市場に投資の方向性を見直すきっかけとなり、「あるいは単一市場への市場集中のリスクに対する認識を高めることになるだろう。したがって最終的に関税がどのように実施されるかに関わらず、世界の貿易国は単一市場への市場集中のリスクを再考する必要がある」と指摘。范総監は、香港の「一国二制度」モデルと、中国本土と世界の他の地域を結ぶ独自の役割により、香港は中国本土と世界の間の新たな貿易と投資の流れにとって最良のルートになると強調した。

香港のさまざまなビジネスマンは関税戦争によってビジネスの見通しが不透明になっているものの、「ゼロ関税」が香港の利点であるという見方で一致している。宝飾業界関係者は、世界中で関税が課される中、香港がゼロ関税を維持すれば、「香港は世界で唯一、より低い税率で良いものが買えるプラットフォームになる」ため、世界の宝飾品流通センターとしての香港の地位がさらに強固になる可能性があると指摘。香港のビジネスマンの中には、もともと米国に販売されていた玩具、時計、眼鏡などの商品が香港で割引価格で販売される可能性があると語る人もいる。「低価格品を販売する」というトレンドは、観光業や小売業に利益をもたらす可能性がある。

統計処のデータによると、香港は昨年、米国から約2061億ドル相当の商品を輸入しており、その中には電話機約301億6000万ドル相当も含まれている。約137億6000万ドル相当の宝飾品とその部品その他の電子集積回路約137億ドル相当、油絵、素描、パステル画など合わせて約131億1000万ドル相当。注目すべきは、米国からの輸入品上位10品目には、非産業用の未装着の「ダイヤモンド」と「宝石類およびその部分品」が含まれており、その価値はそれぞれ約158億3000万ドルと137億6000万ドルである。そして加工も半製品も粉末にもされていない非貨幣的な「金」も含まれ、その価値は約47億9000万ドルとなっている。

また貿易戦争は域外からの人材獲得の面でも香港にとって有利だ。香港中文大学の盧煜明(デニス・ロー)学長が就任して3カ月余りが過ぎたが、4月28日インタビューで、大学は科学研究の競争力維持や優秀な人材の誘致など戦略的な発展に注力していくと語った。米中関税戦争は世界経済に影響を及ぼしているが、現在の状況は香港が海外の科学研究の才能を吸収し、またもともと米国で勉強する予定だった留学生を吸収するのに有利であるとみている。盧学長は香港中文大学が今後5年以内に「世界クラスの総合研究大学」になることを期待しており、科学技術研究の発展と人材の確保が最優先事項だという。

■ブラジルでBRICS外相会議

中国は米国が開始した世界的な関税戦争に対応し「国際統一戦線」の構築を加速させている。王毅・外相は4月末にブラジルで開かれたBRICS外相会議に出席し、「譲歩による解決策はなく、団結だけが唯一の希望だ」と強調。会議に出席した外相らは、世界的な「関税戦争」に反対し、保護貿易主義に断固反対することで一致した。ブラジルのルラ大統領は王外相と会談し「相互関税に対する中国の断固とした強力な対抗措置は称賛に値する。中国の正当な行動は幅広い支持を得ている」と述べた。

王外相は4月30日のBRICS安全保障サミットで、「国際政治を取引化し、国際貿易を武器化し、何もないところから交渉材料を作り出すことは、国家間の信頼の危機を悪化させるだけで、世界の安全保障に対する真のリスクとなるだろう」と指摘。「歴史の岐路に立つ今、我々は単独行動主義の蔓延を許すべきか、それとも多国間主義を堅持すべきか。 BRICS諸国は明確な答えを出さなければならない。屈服することで抜け出す道はない。団結こそが希望の源である」と語った。王外相は、発展途上国のリーダーであり、南半球の最前線に位置するBRICS諸国に対し、正当な権利と利益が不当に奪われるのを黙って見過ごすことなく、権力者を止めるために断固として立ち上がるよう呼びかけた。

BRICS外相会議の終了後、ブラジルのビエイラ外相は記者会見で、参加した外相らは世界的な「関税戦争」に反対することで一致し、保護貿易主義に断固反対すると述べた。会合で発表された議長声明では、外相らは相互関税の濫用などWTO規則に違反する不公正な一方的保護主義的慣行を深刻に懸念しており、WTOを中核とする開放的、透明性、公正性、予測可能性、包摂性、平等性、差別のない多国間貿易体制を支持すると明記された。

■外資の規模「東が台頭、西は衰退」

陳茂波・財政長官は4月20日、公式ブログに投稿し、市場に広範な懸念を引き起こしている米国の無謀な保護主義的行動を批判した。陳長官は、米国当局が貿易相手国にいわゆる「相互関税」を課し、税率を絶えず調整していることが、世界の貿易秩序とサプライチェーンの安定性を深刻に混乱させただけでなく、国際貿易と投資環境の不確実性を大幅に高めていると指摘。ただし最近上場した中国本土企業の中には、過去2年間と比べて外国からの株式購入が大幅に増加した企業もあり、ここ数カ月、一部の外国金融機関は規模を拡大し、香港でより多くの人員を雇用しているという。陳長官は「東が台頭し、西が衰退」という投資構造の変化は徐々に顕著になってきていると述べた。

多くの経済アナリストは、米国のインフレが上昇し、経済が減速し、さらには景気後退に陥る可能性もあると予測。関税戦争は世界経済の見通しにも影響を与え、世界経済の成長を鈍化させるとみている。陳長官も、香港は高度に対外志向の経済であるため、影響を受けずにはいられないと認めた。ただし「国際経済と貿易の状況の変化は中長期的には構造的なものとなることを認識する必要があり、社会のあらゆる分野の力を結集し、祖国に頼り、共同で対応する必要がある」と指摘した。

陳長官はまた、金融市場の多くの友人が最近、国際資本がここ数カ月で香港と中国本土市場への配分を加速していると述べているとも述べた。最近上場した中国本土企業の一部では、外国からの株式購入比率が過去2年間と比べて大幅に増加している。同時に、一部の外資系金融機関も規模を拡大し、香港で人員を増員しているほか、他の地域から幹部職員を香港に異動させるところもある。これは2つの大きな傾向を反映しているとみられる。1つは、国民経済の回復力、革新技術の飛躍的進歩、そしてハイレベルの対外開放政策の継続的な深化により、国際投資家は中国本土への投資の好機を逃すのではないかと懸念している。もう1つは、米国当局の一方的な政策や不確実性により、国際ファンドはリスク分散を加速し、中国本土や香港市場への配分を増やしている。陳長官は「東が台頭し、西が衰退する」という投資環境の変化が徐々に顕著になってきていることは否定できないと言及した。

■ハンセン指数は35000ポイントに

関税戦争は世界的な資金に大きな変化を引き起こしており、「株の女神様」と呼ばれる西京投資管理公司の劉央・主席は5月6日、「米国は前例のない革命を推進しており、東洋の台頭と西洋の衰退によって香港株にはリスクよりもチャンスの方が大きい」と主張した。劉主席は近年、人工知能(AI)を全面的に推奨しており、AIテーマを中心にAI応用セクター、金、高利回り株を配分する「AI+3」投資戦略を提唱。ハンセン指数は2027年までに史上最高値の3万5000ポイントに達する可能性があると予測している。現在の状況は香港にとってリスクよりも多くの機会をもたらしているとみており、中国と米国の運命は「東洋は台頭し西洋は衰退する」と指摘。「米国のシステムが崩壊すれば、新時代の中国の特色ある社会主義の利点が反映されるだろう。市場は徐々に中国のハイテク開発の成果を認識しつつあり、香港株も政治的安定と祖国からの支援の恩恵を受けている」と述べた。

現在起こっている100年に一度の世界の大変革に対する認識が高まるにつれて、特にアジアに身を置く人々のマインドはネガティブからポジティブに変わっていくに違いないだろう。

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