4月上旬、全米50州で60万人の大規模デモがありました。トランプ米大統領に対してさすがにアメリカ国民は危機を感じているのだと思います。これまでインフレ地獄に苦しんでいた国民は、米連邦準備理事会(FRB)のかじ取りでようやくインフレの鎮静化を見ていましたが、トランプ氏の関税政策によって再びインフレ地獄に戻ろうとしているのです。(ICGインターナショナル代表・沢井智裕)
米中関税戦争は中国が有利!
米連邦準備理事会(FRB)は慎重の上に慎重を重ねて利下げを展開してきました。米国内のインフレは沈静化に向かい、国民はようやく物価の上昇が落ち着き、個人消費も堅調に推移し始めていました。しかしトランプ氏の関税政策によって、FRBの政策は台無しにされているのです。中国に対する145%の関税は「輸入物価が上昇するインフレ」という形でほぼ米国民が負担する事になってしまうからです。
物価下落(デフレ)で困っている中国に「追加関税」というインフレを齎しても、効果の程は疑問です。一方で物価上昇(インフレ)で困っているアメリカに、更に「追加関税」で輸入インフレを助長するとはなんという不条理でしょうか。この時点で既に勝負アリではないでしょうか。この貿易戦争はアメリカよりも中国の方が有利であるのは間違いありません。
またトランプ大統領はアジア諸国をはじめとした世界の国々に対して「アメリカを搾取してきた悪者扱い」をした上に、これまでの援助は打ち切り、しかも関税というペナルティで追い打ちを掛けようとしています。これではアジア諸国も、アメリカよりも中国との関係を強固にせざるを得ないでしょう。
EU諸国や日本といった民主主義や資本主義、或いは安全保障といったシステムを共有する国々についても、アメリカによる「裏切り行為」によって信用は失墜しました。アメリカは世界の信頼回復に数十年の時間を要するかもしれませんし、もしかしたら信用回復はしないかもしれません。
トランプ・ファミリーは株の空売りで大儲けか?
またここにきてトランプ・ファミリーによる「NY株式の空売り」という疑惑も浮上しています。2025年4月3日、S&P500が4.85%急落時、シカゴ・マーカンタイル取引所のデータによりますと、トランプ氏の義理の息子のクシュナー氏が管理するアフィニティ・ファンドは、アップルとテスラの株を空売りして57億ドルの利益を上げており、利益はバージン諸島(BVI)の特別目的会社(SPV)を経由してドバイ・デジタル・ゴールド取引所に送金されたとされています。今後、捜査が進められると思われますが、アメリカから資本逃避が起こっている重大局面に、トランプ大統領ファミリーだけが暴利を貪るという構図が露呈された訳です。もはやアメリカの民主主義というシステムは崩壊しているのかもしれませんね。
黒船で変わるニッポンにもチャンス到来!
昨年、今年と様々な「黒船「によって日本が大きく変わろうとしています。
芸能界の巨大勢力であった旧ジャニーズ事務所は、英国放送協会(BBC)によって「性加害疑惑」を追求され、その後解体に追い込まれました。ヘッジファンドの「物言う投資家」米ダルトン・インベストメンツが、フジTVの「性加害問題」に絡む経営改革を迫り、ようやく白日の下に晒されました。埼玉県川口市のクルド人による数々の問題は、対移民・外国人で前近代的な法整備の改革が進みます。これらは全て「黒船」です。
そして最大級の「黒船」がやってきました。トランプ米大統領が「黒船」のラスボスとして日本の前に立ちはだかりました。日本に対して「日米安全保障条約」は不平等で、アメリカは日本の有事に日本を防衛する必要があるのですが、日本はアメリカの有事にアメリカを防衛する必要がないと憤っています。私達には専守防衛を再構築するチャンスかもしれません。財源の問題をとやかく言われがちですが、ドイツと同じ方式を取ればよいのです。日本の国防費は財政法第4条を改正して、「国債を発行して国防費に充当する」と変更すれば、日本も湯水の如く国防費は捻出できます。国家の財政赤字を心配する必要はまったくありません。
韓国は核保有国になる
ノーベル平和賞の受賞を目指しているトランプ氏の思惑とは逆に世界は動き、核保有国家は増加します。その筆頭は韓国です。アメリカが信用できない国家とはっきりしますと、核保有国の北朝鮮と緊張状態にある韓国はもっとも危険な状態に追い込まれてしまいます。また韓国は政治が紛糾していて、ほぼ無政府状態といってもいい状態で韓国の国民が急速に右傾化する可能性があります。
3月中旬に欧州同盟(EU)は財政規律枠組みについては、適用停止により加盟国が防衛費をGDP比で平均1.5%増額した場合、4年間で6,500億ユーロの支出が可能だとしました。想定しているウクライナへの軍事支援額の最大1,500億ユーロ規模を加算しますと総額8000億ユーロ(約128兆円)規模となります。防衛に目覚めた欧州諸国は、アメリカ製に依存しているミサイルや戦闘車の部品の調達を100%欧州内で製造できるように転換してくるからです。フランスは「核の傘」議論を展開し始め、EU加盟国全域を守る覚悟です。ロシアとアメリカは核爆弾をそれぞれ5000発以上保有しています。フランスは300発そこそこですが、フランスのそれは移動式で、ロシアやアメリカ製よりも優れているのです。アメリカやロシアのように長距離には最適でも、短距離には不向きです。ウクライナやポーランドにフランス核を配備する事で、ロシアにとっては大きな脅威になることは間違いありません。
このような状況下で、トランプ大統領の関税政策は政治的・経済的な失敗に終わる可能性が大きいです。従って今後は政策変更が行われる可能性も大きいです。いずれにしましても一人のクレージーなリーダーの為に、世界の罪なき人々が混乱に巻き込まれる時代が続くのです。
(資料)米大手IT株が急落 テスラ社の株価チャート

https://www.investing.com/equities/tesla-motors-chart
ちょっとお笑い、アトム&ジュエリー
アトム:アメリカ人、意気消沈らしいやん? インフレでボロボロらしいで。株も債券も、ほんでドルまで下がってるんやからなあ。
ジュエリー:トリプル安ね。1年後のインフレ期待値が6.7%まで上昇したってことでしょ。40年ぶりの高水準ってこと。ドルを暴落させてインフレ調整するしかないでしょ?
アトム:でもドルを暴落させるのはいいアイデアやわ。他国の製品が高くなって、アメリカ人が買われへんようになって、結果として外国製品を遠ざけることが出来るからなあ。
ジュエリー:でもそれって本当に幸せなのかな? さらに物価が上昇してしまいそうで、インフレ大国になりそう。
アトム:確かに実際、アメリカに行ったら物価は高いよ~。レストランなんか10%のサービス料があって、その上でさらにチップを払わんとアカンからなあ。チップの欄があって、5%、10%、15%、20%から選択するようになってるんやから。
ジュエリー:それらサービス料やチップは経済統計には反映されていないから、実際のインフレ率はもっと高いってこと。トランプさん、いいとこ無しだね。
アトム:イーロン、頼むからアンタのロケットで花札・・・、いやトランプさんを火星に飛ばしてくれへんかなあ?
ジュエリー:🎵に・し・や・まダディ、ダディ、どすこい、ワッショイ!ピープル、ピープル!
アトム:インフレ高騰でとうとうおかしくなったんかな?
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
香港在住。
1995年にイスラエル人パートナーと共同経営でICGグループを設立。プライベートバンキングとファンドマネジメントを中心とした金融事業に精通。
ヘッジファンドやエクイティファンドを運用し、経験値と実績を積み重ねる。2022年には金融事業の一部を香港の上場企業に売却。
香港では米系華僑のアトラス・キャピタル社のレスポンシブル・オフィサーに就任し、華僑系の資産運用も一任されている。
香港から見た国際経済・国際金融についてユダヤ・華僑富裕層から得た情報を元に、日本国内では独自の切り口で上場企業や各団体の依頼で講演活動を行う。
著書多数。
https://www.icg-overseas.com/blog

日刊香港ポストは月曜から金曜まで配信しています。ウェブ版に掲載されないニュースも掲載しています。時差ゼロで香港や中国各地の現地ニュースをくまなくチェックできます。購読は無料です。登録はこちらから。