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2025/26年度財政予算案、議員・公務員の昇給凍結

陳茂波・財政長官は2月26日、2025/26年度財政予算案を発表した。政府の財政赤字を解消するため、行政、立法、司法、区議会の職員を含むすべての公務員の昇給を凍結、公務員の定員を年間2%削減するほか、人工知能(AI)産業の発展加速などを含めた「財政再建計画」を打ち出した。(編集部・江藤和輝)

24/25年度の財政収支は872億ドルの赤字で、当初予算の約481億ドルの赤字を大幅に上回った。財政余剰は25年3月31日で6474億ドルとなる見込み。法人税と個人所得税による収入は安定を維持し、当初予算とほぼ同じで香港経済の力強さを反映した。だが資産市場は圧力を受け、政府の土地関連収入は減少した。当初予算に比べ歳入は11.6%減。歳出は当初予算より2.9%減少した。25/26年度は歳入6594億ドル、歳出8223億ドルで、670億ドルの赤字を見込んでいる。財政余剰は26年3月末に5803億ドルまで減少する。ただし税収増加と公債発行によって今後5年で財政赤字は年々縮小し、26/27年度には財政黒字を回復。財政余剰は30年3月末に5791億ドルとなる見込みで、域内総生産(GDP)の13.9%、約8カ月分の財政支出に相当する。

陳長官は今年の財政赤字は 872 億ドルになると述べ、政府支出の厳格な管理と歳入の増加に重点を置いた強化版の財政再建計画を提案した。これには2027/28 年までに政府の一般歳出を 7% 削減すること、4月から施行される行政、立法、司法、区議会の職員を含むすべての公務員の昇給を凍結すること、2026/27年度と2027/28年度に公務員の定員を年間2%削減することが含まれる。2027年4月までに約1万人のポストが削減されると予想されている。政府は今年、賃金動向調査を継続しないことも決めた。

政府の財政赤字は依然として高いため、財政予算案では引き続き市民の生活負担を軽減する措置を盛り込んだが、その度合いは2年連続で大幅に低下している。不動産税、個人所得税、法人税の引き下げはいずれも前年比で半減し、高齢者手当や生活保護など各種社会保障給付は「半月分」の追加にとどまっている。陳長官は、財政状況を考慮し政府は「能力の範囲内でできる限りのことをしており、皆様のご理解を願っている」と述べた。

陳長官は、一部の業界や市民が依然として直面している一定の圧力と政府の財政状況を考慮し、政府は2025/26年度第1四半期に住宅および非住宅物件の不動産税率を1世帯あたり最大500ドル引き下げると述べた。これには約312万軒の住宅物件が関係し、政府の収入は約15億ドル減少する。関係する非住宅物件は約43万軒で、税収は約2億ドル減少する。さらに当局は 2024/25 年度の個人所得税を100% 引き下げ、上限は 1500 ドルとする。香港の納税者約 214 万人が恩恵を受け、政府の収入は約 29 億ドル減少しる。法人税の引き下げ上限も1500ドルで、香港の16万5000 社を超える企業が恩恵を受け、政府の収入は約2億ドル減少すると予想される。

■空港離境税を200ドルに引き上げ

財政赤字に直面している政府は収入増加に躍起となっており、今年第3四半期に空港離境税を200ドルに引き上げ、年間16億元の収入増加を見込んでいる。また陸路の出入境管理所から出境する自家用車から辺境建設費を徴収することも検討している。例えば、車1台に200ドルを課せば毎年10億ドルの税収もたらすことができる。各種人材入境スキームは26日から申請料600ドルが必要となり、滞在期間に応じて600~1300ドルのビザ料金が必要となり、年間6億2000万ドルの収入増加が見込まれる。

2025/26年第3四半期から、航空旅客離境税は現在の120ドルから200ドルに引き上げられる。政府はこれにより年間約16億ドルの収入増加を見込んでいる。政府筋によると、この措置は今年10月1日から実施される。10月1日より前に航空券を購入する乗客は、離境税120ドルのみを支払う(10月1日以降に出発する便を含む)。10月1日以降に航空券を購入する場合は、離境税200ドルを支払う必要がある。関係者によると、離境税は2003年に最後に調整されて以来、20年以上変更されていない。今回の調整は観光業界にほとんど影響がなく、「飛行機に乗れる人は比較的経済的に余裕がある」とされ、「イベントの都」としての香港の位置づけにも影響しないとみられている。

陳長官は27日、立法会財務委員会に出席し、立法会メンバーに予算内容について説明した。行政会議メンバーの林健鋒氏は、当局が陸路で出境する自家用車に課す辺境建設費200ドルは高すぎると業界は考えていると述べた。林氏は「近隣都市への航空券は300ドル程度でしかない」と指摘したほか、中央政府は香港が粤港澳大湾区の発展に融合することを望んでいるとし、「大陸で商売をするたびに200ドルを請求しなければならないとしたら、商売に影響が出るだろう」と述べた。陳長官は、これまで社会からさまざまな意見を聞いてきたとし、運輸及物流局などが関連調査を行っているが、まだ決定は下されていないと述べた。政府は2003年に「辺境建設税条例草案」を立法会に提出し、辺境建設税設置の可能性を検討していた。草案では、陸路出入境管理所を経由して香港を出境する自家用車は1台あたり100ドルの税金を支払い、陸路、海路・港湾の出入境管理所を経由して香港を出境するすべての人は1人あたり18ドルの辺境建設税を支払うと提案されていたが、結局実施されなかった。

このほか新たな税収確保のためにサッカー賭博に続いてバスケットボール賭博の開放も前向きに検討しており、香港ジョッキークラブに提案を要請している。

■人工知能を香港の主要産業に

陳長官は26日午後3時から記者会見に出席し、予算案の内容に関するメディアの質問に答えた。陳長官は「財政再建計画」には4つの主要な方向性があり、その中には人工知能(AI)の発展を加速することが含まれると述べた。AIは新しい品質の生産性の向上に役立つ。政府は10億ドルで香港人工知能研究開発研究所を設立し、第1回国際ロボット会議を主催する。2つ目は、経済発展を全速力で推進し、生産性を育成すること。3つ目は、より多くの新しい資金を誘致して北部都会区を振興し、市場の力を利用して開発を促進し、エリア開発を通じて開発を加速すること。インフラ支出の増加に伴い、債券発行規模もそれに応じて拡大される。

陳長官は予算案の冒頭でイノベーション科学技術発展の契機を捉え、北部都会区の建設を加速すると言及。その筆頭に挙げたのが人工知能(AI)技術である。中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議は、科学技術革新の中核的立場を明確にし、高度な科学技術の自立の実現を加速する必要性を強調し、香港が国際プラットフォームとしての優位性を十分に発揮し、人工知能産業の発展を加速する方向性を指摘。陳長官は、「一国二制度」の制度的優位性と国際的特徴を生かし、香港を人工知能産業の国際交流と協力の集いの場にし、最先端の研究と実用化を通じて、人工知能を主要産業に発展させ、伝統産業のアップグレードと変革を推進していくと述べた。

サイバーポートの人工知能スーパーコンピューティングセンターの施設の第一フェーズがちょうど稼働を開始した。今年中にコンピューティング速度は徐々に向上し、毎秒300京回の浮動小数点演算が可能になる。これは毎時約100億枚の画像を処理するのに等しい。香港マイクロエレクトロニクス研究所は昨年 9 月に設立され、大学、研究開発センター、業界を率いて第 3 世代半導体コア技術の開発に協力し、粤港澳大湾区の完全な製造業チェーンと巨大な市場を有効活用して、科学研究成果と産業発展の「1 から N へ」の変革を推進している。 2つのパイロットラインは今年、元朗マイクロエレクトロニクスセンターに組み立てられ、来年稼働する予定だ。

香港の AI イノベーション、研究開発、産業応用を指導し、支援するために、香港人工知能研究所の設立に10億ドルを留保。デジタル政策室は、人工知能の上流研究開発の推進、中下流成果の変革、応用シナリオの探求に重点を置き、研究開発研究所の設立手続きと具体的な目標を策定する。「人工知能資金プログラム」は昨年 10 月の開始以来、地元の大学や研究機関が主導する 5 つのプロジェクトを承認し、大規模言語モデル、新素材、合成生物学大規模モデルに関する地元の研究開発作業を加速している。

陳長官は予算案で「北部都会区は香港の社会経済発展にとって極めて重要。イノベーションとテクノロジー産業の発展を加速し、粤港澳大湾区の建設にさらに深く関与し、市民に質の高いキャリア開発の機会と生活環境を創出することができる。政府は引き続きこのプロジェクトへの資源を優先的に配分していく」と述べ、以下の主要産業を挙げた。

(1) イノベーション科学技術

河套深港科技創新合作区の香港園区と新田科技城が大量のイノベーション科学技術産業の用地を提供。それらは河套深港科技創新合作区深圳園区と相互補完を図る。またボーダーを越えた流れを促進するための新しい政策も導入する。

(2) ハイエンド専門サービスと現代物流

洪水橋/厦村新開発区は、深圳湾公路大橋と計画中の港深西部鉄道によって深圳前海と接続され、国内外の企業にサービスを提供するハイエンド専門サービス拠点となる。香港と深圳の間の越境貨物輸送計画の下、出入境管理所周辺の物流用地も戦略的に配置する。

(3) 高等教育

イノベーション科学技術産業の発展を支援し、香港を国際的な高等教育のハブとするため、北部都会区に約90ヘクタールの土地を確保し、第3の医学部を含む「北都大学教育城」を開発する。

(4) 文化、スポーツ、観光

北部都会区では、文化・スポーツ施設の建設用地を確保し、伝統的な町や歴史・文化資源も保護する。地域の特性を踏まえ、エコツーリズムの推進をはじめ、文化・スポーツ・観光産業の振興に努める。

河套深港科技創新合作区の香港園区は今年中に運用段階に入る。第1期の最初の3棟が次々と完成し、生命科学や健康技術、人工知能、データサイエンスなどの業界をカバーする最初のテナントが年内に入居する予定だ。香港園区の第一段階のインフラと公共施設の完成を早めるために37億ドルが割り当てられる。同時に、今年度は適切な土地を選定し、民間の開発計画を募集し、市場の力を活用して開発を加速する。香港園区が完全に開発されると、香港経済への貢献は年間520億ドルに達し、約5万2000人の雇用が創出されると予想されている。

■今年のGDPは2~3%増と予測

財政予算案とともに24年の経済統計と25年の経済見通しが発表された。24年通年の実質域内総生産(GDP)伸び率は前年比2.5%で、2月3日に発表した速報値と同様。CPI伸び率(物価上昇率)は1.7%、政府の一過性の措置による影響を除いたCPI伸び率(基本物価上昇率)は1.1%だった。24年の香港の商品輸出は4.7%増。香港経済は今年も依然として外部環境の試練に直面するが、プラス要素も少なくない。保護主義の台頭が貿易と資金の流れに影響するものの、中国本土の経済が引き続き安定的な伸びを見せ、さらなる高水準の対外開放拡大で本土企業の海外進出を促進し、貿易活動の発展に有利となる。中央政府のさらなる積極財政と金融緩和の政策で内需を拡大し経済成長が後押しされる。こうした要素を考慮し、25年通年のGDP伸び率は2~3%、物価上昇率は1.8%、基本物価上昇率は1.5%との予測を示した。

陳長官は予算案の冒頭で、世界が変革の局面にある中、科学技術イノベーションを中核に全力で経済発展を加速させなければならないと言及。北部都会区の建設を加速させるため、財政の健全を維持するという前提の下で適度に公債発行規模を拡大し、未来への投資のために臨機応変に資金を活用すると指摘している。一般歳出を 7% 削減の一方でイノベーション科学技術への資金投入は惜しまない構えだ。

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