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行政書士に聞く 教えて! とら子先生

第3回 お父さんは経営者

アキョンアキョン

僕の名前は阿強(アキョン)、香港生まれ香港育ちの16歳の高校生。日本のアニメや漫画が大好きなんだ。香港島にお父さんとお母さん、お婆ちゃん、大学生のお姉さんの5人で暮らしているよ。お父さんは茶餐庁(チャーチャンテン)を経営していて、お母さんと叔父さんもお店を手伝っているんだ。

とら子先生とら子先生

私は日本の福岡市内で行政書士をしている「とら子先生」こと大島香折です。事務所の名称が「虎子(とらこ)行政書士事務所」だから、私のことを「とら子先生」と呼ぶお客さんもいるの。専門は日本の在留資格・永住申請と帰化申請よ。アキョン、分からないことがあったら何でも聞いてね。

 

アキョン:今日はお父さんのことなんだけど、日本で飲食業を始めたいって。

とら子:お父さんは香港で茶餐庁を5店舗経営しているのよね?

アキョン:4店舗は茶餐庁で、1店舗は少し高級な潮洲料理レストラン。うちはお爺ちゃんもお婆ちゃんも潮洲出身で、飲食業を最初に始めたのは亡くなったお爺ちゃんなんだ。

とら子:潮洲料理はおいしいよね。

アキョン:おいしいよ。うちのお店もすごく繁盛してる。お爺ちゃんは14歳の時に潮洲から香港に来て、靴磨きや工場で働いてお金を貯めて、お婆ちゃんと結婚した時に小さな潮洲料理のお店を開いたの。そこから二人でがんばって、お爺ちゃんの弟も呼び寄せて。あの頃は中国本土は貧しかったから、田舎の家族にも仕送りしないといけなくて必死に働いたっていつもお婆ちゃんが言ってる。

とら子:お爺さんたち苦労したのね。お父さんは香港では飲食店の経営だけをしているの?

アキョン:そう、お父さんは飲食店だけ。お父さんの従兄弟が食品の輸入業をやっていて、日本の食材も仕入れているんだ。香港では日本の果物がすごく人気だから、お父さんは日本に行ったら従兄弟の会社に果物の輸出もしたいって。でもまずはレストランを開く予定。

とら子:日本でレストラン経営と食品の輸出業をするのであれば「経営・管理」の「在留資格認定証明書交付申請(認定申請)」が必要ね。法人でも個人事業でも事業規模は500万円以上が要件よ。

アキョン:株式会社にするよ。今の事業も香港で法人だし。まずはお父さん1人だけで会社を作るって言ってる。でも500万円って30万香港ドルくらいだから高くないね?

とら子:円安だと特にそう感じるわよね。「経営・管理」の問い合わせでよくあるのが、「500万円で会社を作ればビザが取れるんでしょう?」というもの。でもこの500万円以上というのは設立から1年間に投下する事務所や店舗の賃料、機器のリース料、従業員の給与といった固定費で、仕入れなど売上によって変動する変動費は別途準備する必要があるし、資金計画も在留資格の申請時に事業計画書に反映させないといけない。業種によっては取引先や仕入れ先、顧客リストも必要だから、そんなに簡単なものではないのよ。

アキョン:レストランに来るのは個人のお客さんだよ。食材の輸出は従兄弟の会社と取引する。仕入先は分からないけど…。

とら子:レストラン経営は店舗と設備があって、事業が第三者から見て分かりやすいからまだいいけど、例えば一人会社で事務所と住居が一緒、しかもインターネットで取引するような事業だと、日本にいる必要性が感じられないから内容によっては許可が下りない。その場合は、事務所として使用可の物件で事務所用の部屋が確保されていて、社名を掲げた看板があり、光熱費も事業用と生活用で分けるといった細かな要件もあるの。

アキョン:お父さんはお店を開くから分かりやすいけど、ちょっと心配。

とら子:どんな在留資格も申請すれば絶対に許可が下りるものではないからね。それでも日本で事業をする意思と目的が明確で具体的に準備を進めているのであれば、過度に心配する必要はない。むしろ在留資格が下りた後、事業を軌道に乗せる方が大変でしょう? 赤字続きだと在留期間の更新だって難しくなる。

アキョン:お父さんは事業の経験があるから、お客さんがいっぱい来ればすぐに軌道に乗ると思う。

とら子:そうね。でも経験があっても、飲食店は立地や住民の年齢層も大きく影響するから、事前調査はしっかりとね。

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アキョン:お父さんは今はまだ日本に住所がないんだけど、それでも日本で会社を作れるの?

とら子:以前は非居住の外国人だけで法人の設立・登記をすることはできなかったけれど、2015年の法改正で、日本に住所を有さない外国人でも会社を作れるようになったの。ただ、店舗や事務所の契約は居住者じゃないと不動産会社が契約を拒む事が多くて、そのために登記ができない事が多々ある。不動産を購入するか、日本に役員や代理人がいれば契約できる可能性は高いけど。

アキョン:不動産を買わなくて、そういう人もいない場合は?

とら子:その場合は4ヶ月の在留期間の認定申請をすることもできるわよ。「経営・管理」の認定には4ヶ月の在留期間があるから。

アキョン:4ヶ月って短いね。

とら子:4ヶ月は在留カードが出るギリギリの期間で、在留カードが出れば住民登録ができるから、この間に不動産契約と法人登記をするの。4ヶ月の認定申請をするためには法人であれば「定款」、賃貸予定の事務所の資料、資金の証明、事業計画書等を用意しないといけない。認定証が下りたら、日本で住民登録と会社の設立・登記をしてから在留期間の更新申請をする。許可が下りれば次は1年以上の在留期間がもらえるわ。

アキョン:お父さんは日本語ができないから定款やそれ以外の資料も作るのはムリだよ。

とら子:そのために私たち専門家がお手伝いするの。定款の作成と認証手続き、在留資格の申請も含めた外国人の会社設立サポートは行政書士の業務範囲でできるから。ただし法人登記は司法書士にお願いしないといけない。会社の設立に関することは日本人でも専門家に頼むことが多いのよ。

アキョン:じゃあ、最初から1年の期間をもらうにはどうすればいいの?

とら子:主なケースとしては代理人を立てて会社の設立・登記まで済ませ、資本金500万円以上の「履歴事項証全部明書」を提出するの。ただし「経営・管理」の結果は通常2~3ヶ月、場合によっては4ヶ月近い時間を要することもある。その間も賃料、設備費、人件費といった固定費は掛かり続けるから、仮に不許可だったら会社の経営ができないまま経費だけ流れ出ていってしまうことになりかねない。そういったリスクがあることも十分理解しておかないとね。

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アキョン:少し難しかったけど、日本で会社経営をするための在留資格のことは大体分かったよ。お父さんに話しておくね。

とら子:お父さんは経営者だから、大まかな話をすればすぐに分かると思う。ところで前回、お父さんが元気ないって言ってたけど?

アキョン:男のメンツの問題だったよ。お父さんは、何年も前から日本で事業をすることを決めていたのに、新型コロナウイルスのせいで延び延びになっていて、そこにお姉さんの結婚話でしょう。「今、俺が行くなんて言うと娘を追いかけて行くみたいでかっこ悪い」って。実際、同業者や従業員に話したら「子離れしろよ」って言われてメンツがないし、説明しようとすると言い訳みたいになって深みにはまるから無口になってたみたい。

とら子:メンツは大切よ。

アキョン:ところで、お父さんの開くお店がもし潮洲料理のレストランだったら日本でシェフを見つけるのは大変だよね?

とら子:そうね、中華料理のシェフは認定申請で許可が下りれば呼び寄せることもできるわよ。

アキョン:それを聞いて安心したよ。次回はシェフのことを教えてね!

(この連載は不定期に掲載します)

 

ワード解説

定款:商号、目的、本店の所在地、発行可能株式総数、資本金の額、事業年度、発起人の住所氏名など会社の基本事項を定めたもの。株式会社の定款は公証役場で公証人の認証を受ける必要がある。なお、合同会社は認証を受ける必要がない。

履歴事項全部証明書:登記事項証明書の一つで、現在の登記事項と請求日の3年前に属する日の1月1日以降に抹消・変更された登記記録を証明する。以前は「登記簿謄本」と呼ばれたが、電子データ化にともない名称が変更された。

虎子行政書士事務所 代表・特定行政書士 大島香折

【筆者紹介】

大島 香折(Oshima Kaori)

「虎子行政書士事務所」代表

特定行政書士・出入国在留管理庁申請取次行政書士

元・香港ポスト編集者、在職中に香港の永住権を取得。帰国後は主に行政の中国語通訳・翻訳者として活動するとともに、福岡出入国在留管理局在留総合相談窓口で中国語担当の相談員として在留資格や永住申請に関する相談を受ける。2020年に行政書士登録、福岡市内に「虎子行政書士事務所」を開設。専門は日本の在留資格・永住・帰化申請等。

メール、公式LINEで日本語と中国語の相談を受け付けています。

アドレス:oshima@torako-office.com(可中文諮詢)

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