これまで世界の国々は、「トランプ関税」の対応に振り回されていましたが、2月20日に米最高裁が「トランプ関税は違憲」という判断を下したことにより、これまで意気揚々と各国に高い関税を課していたトランプ大統領の政策は、一気に振り出しに戻されてしまいました。その直後の事、2月28日にアメリカ軍はイスラエル軍と共闘する形でイラン攻撃を開始しました。今、世界の関心は、完全にトランプ関税からイラン攻撃に移行しました。(ICGインターナショナル代表・沢井智裕)
1 イラン攻撃の意味
なぜアメリカとイスラエルはイランを攻撃したのでしょうか?まずイスラエルの立場から見ていきますと、イランはもともとイスラエルを敵視しており「イスラエルを中東の侵略者で、国家としての存在を認めない姿勢」を取っています。同時にイスラエルも中東で唯一、イスラエルとの和平に反対している国家としてイランを敵視しています。
その根底にはイスラエルのユダヤ教(神ヤハウェ)とイランのイスラム教(神アッラー)シーア派の中のイスラム原理主義があります。どちらも唯一神で、他の神を認めていないことから、両者が宗教的側面から妥協することは有り得ません。また両国の国民はそれぞれ幼少期からユダヤ教徒は「旧約聖書」で、イスラム教徒は「コーラン」といった「聖典」で学ぶ為に、聖典に書いてあることが唯一正しい事と刷り込まれています。
そしてアメリカの立場から見ていきますと、イランは「反米政権」である上、まもなく核開発が実現します。世界の原油埋蔵量では世界第4位(1位はベネズエラ)を誇るイランが核保有国になりますと、イランは最高指導者一人の決定で原油供給に大きな影響を与える
ことが出来るようになります。またイランが面している湾岸諸国との間にある「ホルムズ海峡」を石油タンカーは航行できなくなります。従いましてイランの核開発は、アメリカのみならず、湾岸諸国もなんとしても阻止しなくてはならなかった訳です。
2 イランの大きなミステイク
中東のイスラム教国家でもイランとは一線を画すイスラム教スンニ派の国家群は、長年に渡ってイランの核開発を憂慮していました。サウジアラビアは、軍事面でも水面下では大いにイスラエルを支援しています。またイランは米・イスラエル軍の攻撃を受けた際に、報復措置としてオマーン、アラブ首長国連邦(UAE)、イラク、カタール、サウジアラビア、シリア、ヨルダン、アゼルバイジャン、トルコの米軍基地に攻撃を仕掛けた事によって、これらの周辺諸国からの信頼も失ってしまいました。これはイランにとって非常に大きなミステイクであったとされています。
3月7日にイランのペゼシュキアン大統領は、報復措置として湾岸諸国など周辺国の米軍基地を攻撃したことについて、「謝罪する」と表明しています。もとよりこれだけ多くの米軍基地が中東諸国に点在していることの意味の方が大きいと思います。どれだけ中東諸国がイランを警戒していたかを想起させます。
3 金融市場も打撃だが…。
3月9日の原油先物価格は、1バレル=119ドル台に上昇し前日比、14%程度上昇。年初からは2倍以上に上昇しました。この原油価格の高騰は日本や韓国を中心としたエネルギー輸入国にとっては大きな経済的ダメージになります。原油価格の高騰が長期化するようですと経済全体に与える影響は計り知れません。
米・イスラエル軍がイラン攻撃を開始してから日本株・韓国株が大きく売られているのはその為ですが一方でアメリカ株の下げ幅が他国に比べて低いのは、アメリカがエネルギー大国であり、純輸出国であるからに他なりません。
またユーロ圏諸国にも大きな打撃となります。といいますのはただでさえロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシア産の原油や特に天然ガスの供給が滞っています。さらにホルムズ海峡の封鎖によって、イランのみならず中東産の原油の輸入が滞った場合は、文字通り欧州諸国は存立危機事態に陥ります。
唯一、ダメージが少ないのはアメリカです。アメリカは世界の原油埋蔵量第1位のベネズエラ産の原油を抑えた上に、第4位のイラン産の原油に抑えることに成功すれば、親米国家の産油国のものも含めて、世界の原油の50%以上の価格をコントロールできるようになります。またベネズエラ産原油の輸出先は80%が中国向け、イラン産の原油の90%が中国向けであることから、トランプ米大統領は、次期米中首脳会談で、「エネルギー外交」をカードに使用することは間違いありません。
4 世界から取り残されたイスラム教徒
アラブ諸国、或いはイスラム教圏の国々では国王や最高指導者が政治に関与する傾向があります。特にイランは最高指導者の裁量次第で国民の幸福度が決まってきます。残念ながらイランは核開発を目指していたことで、西側諸国が中心になって長年、経済制裁に遭遇しており国民は近年、高いインフレ率に悩まされており生活水準の低下に歯止めが掛かりません。イランの政治体制に対する国民の不満が、米・イスラエル軍の攻撃を助長した側面は否定できません。
また汚職問題も深刻化しています。一部の指導者や幹部だけが贅沢三昧をしており、その国民の生活水準は一向に改善していません。イスラム教徒が多いアフリカ諸国に世界の
国々が莫大な資金援助を長年に渡って行っているにも関わらず、庶民の暮らしが一向に改善されていないのはなぜでしょうか? それらの国々のリーダーが自分たちの私腹を肥やす汚職が蔓延していることで、一般庶民にはまったく経済的な恩恵は施されていないのです。それらの莫大な援助資金を懐に入れることによって、リーダー達はさらに権力を増長させていくといった悪循環を生んでいます。
イスラム教国の問題点は男尊女卑という形にも表れています。つい最近までイランでは「ヒジャブ着用の義務」があり、違反者は最高で15年の禁固刑。もちろんイランの女性のみに適用されていました。イスラム教圏の国々は汚職の摘発だけでなく、男女同権の実現に努力する必要があるのではないでしょうか? それによってようやく経済成長に向かって国民が一致団結して同じ方向に向かうことが出来るのではないかと思います。
ちょっとお笑い、アトム&ジュエリー
ジュエリー:ベネズエラの次は、イランだったのね。
アトム: トランプさんはだいぶ、イスラエルのネタニヤフ首相に煽られたみたい
やけどね。イラン壊滅のチャンスやでって。
ジュエリー:イスラエル人のイラン攻撃に対する支持率は、80%超えだからね。いかに
イスラエルとイランの間の溝が大きいかが分かるよね。
アトム :もう宗教が絡むと、ややこしいんやから。今の欧州諸国で移民が問題に
なっているのは、ほとんどイスラム教徒の移民やからなあ。ドイツ、
フランス、イタリア、スイス、オランダ、スペイン。
ジュエリー:でも欧州諸国ではスペインだけが、少なくとも50万人の不法滞在移民を対象
に在留資格を与えるという寛容政策が始まったところよ。
アトム: そういえば、スペインだけがアメリカに対して自国の空港の軍事利用を認め
へんかったんや。スペイン、ホンマ大丈夫か???
ジュエリー:それよりも日本でしょ? 昔からエネルギー問題が言われてきたのに、未だ
にエネルギー安保が改善されていないでしょ。
アトム: ホンマ、政治家なにやってんねん?って感じやな。
ジュエリー:エネルギーだけでなく、レアアースも同じよね?
アトム: レアアースは南鳥島沖、海底6000メートルの地層で800年分見つかったんで
これからやわ。まあ実際に掘れた訳やから大丈夫なんとちゃう?
昔、ある専門家が「原油はマグマで出来ているから、原油は無限に掘ること
が出来る」と言った事があったそうな。
ジュエリー:もしそれが本当なら、いいけどね。確かに自分達が子供の頃から「地球上の原油資源はあと40年分」と言われていたけど、今でも「あと40年」と時計は止まっているよね。
アトム :ゴールドやなくて、マグマ掘りに行こか?
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
香港在住。
1995年にイスラエル人パートナーと共同経営でICGグループを設立。プライベートバンキングとファンドマネジメントを中心とした金融事業に精通。
ヘッジファンドやエクイティファンドを運用し、経験値と実績を積み重ねる。2022年には金融事業の一部を香港の上場企業に売却。
香港では米系華僑のアトラス・キャピタル社のレスポンシブル・オフィサーに就任し、華僑系の資産運用も一任されている。
香港から見た国際経済・国際金融についてユダヤ・華僑富裕層から得た情報を元に、日本国内では独自の切り口で上場企業や各団体の依頼で講演活動を行う。
ドラゴンゲート株式会社の海外特別顧問、投資兼財務戦略アドバイザー。
著書多数。
https://www.icg-overseas.com/blog
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