アメリカが一段と「帝国主義」の様相を極めてきました。自国の主張を受け入れないと「関税」という制裁を課す。さらにトランプ米大統領は「反米政策に同調する国に10%の追加関税を課す」と暴言を吐いています。一方で金融市場では既に静かな抵抗が始まっています。またそれは今後、時間を掛けて大きなうねりとなり、私達の生活にも降りかかってくるのです。(ICGインターナショナル代表・沢井智裕)
1 米株価はたった7社が牽引
この10数年、アメリカ株の一強体制が続いていました。特にコロナ後のアメリカはインフレを克服し、米連邦準備理事会(FRB)は利下げに舵を切り、米株式市場に世界の資金を引き寄せました。通常、利下げは米ドル売りを誘発するはずですが、好調な株式市場に世界の資金が集まって返ってドル高になるほどでした。日本円の対ドル相場が1ドル=160円台のドル高円安になったのは日本人の記憶にも新しいところでしょう。
但し米株高の中身を見ますと、アメリカも手放しで株高を喜ぶ訳にはいきませんでした。具体的にはグーグル、アップル、フェイスブック(メタ)、アマゾン、マイクロソフト、そしてテスラとエヌビディアを加えた7社の株式時価総額だけで米S&P500指数の株式時価総額全体の30%を超えてしまっていたのです。 米大手金融機関は株式市場のテーマを、生成AIと半導体と位置付けて、株価を吊り上げていたのです。そしてこれら7社の株価が上昇することによって、その類似企業の株価が上昇します。その後、さらにそれらの企業と取引のある企業の株価が上昇し、株式市場の相場全体を押し上げるという構図です。
つまり米株式市場は7社の相乗効果によって成り立っていると言っても過言ではないのです。しかしながらトランプ大統領の登場で状況は一変しています。
2 アメリカ一辺倒から世界分散型へ
各国の投資家はトランプ氏の日替わりメニューの政策変更に辟易としており、相場には「不確実性」という言葉が常に付いて回るようになりました。特にプロの機関投資家は莫大な資金を運用しています。「不確実性のある投資先」に投資することはできません。従いまして今後はアメリカ一辺倒の投資からリスクを分散する為に、成長余力のあるアジアや南米、割安感のある中国・香港市場、そして市場として成熟している欧州に投資資金を分散する可能性が指摘されています。
実際、トランプ大統領は就任当初、世界から戦争・紛争を無くして、世界平和を実現すると宣言していました。しかしながらロシアによるウクライナ侵攻は一向に解決には向かわず、イスラエルではハマス・ヒズボラの黒幕イランにまで紛争が拡大。もちろんトランプ氏の意図は、世界から戦争・紛争を無くすことで現地に駐留している米軍経費の削減を目指すことですが当面、その目的は果たせそうにありません。当然、財政支出を削減できない訳ですから、米政府の債務残高は今後も増加傾向が続くことになります。つまり借金の拡大はアメリカの信用を侵食するものとなります。
2 中国と香港にはフォローの風
香港の代表的な株価指数であるハンセン指数は、年初から7月18日までに23.76%上昇。一方、同期間に米S&P500指数は7.06%、ナスダック総合指数は8.21%の上昇にとどまっています。また米政策に同調し、さらに関税政策ではアメリカの言いなりになって苦汁を飲まされている日本の日経平均株価は同期間0.19%下落しているのです。
つまり世界の投資家のアメリカ離れは既に始まっているのです。中国や香港にとっては世界の投資資金を取り込むチャンスなのです。今年は香港の新規株式公開(IPO)による資金調達額が世界一に返り咲きました。1-6月期の資金調達額が1000億香港ドル(約1兆8000億円)を超えて、上半期では世界1位に返り咲いています。
しかしながら一方で中国は超少子化・高齢化社会を迎え人口減少が進みます。世界一の人口を誇った中国も昨年インドに抜かれたようです。また不動産市場には復活の兆しは見えず、経済成長も2024年の政府発表では5.0%成長を成し遂げたとされていますが、経済アナリストによると他の経済指標を見る限り、5%程度の経済成長を達成したかは疑わしいとの見方です。
中国国家統計局が発表した6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.1%と5カ月ぶりの上昇に留まったところを見ると中国経済がデフレに苦しんでいることがよく理解できます。これは中国の家計の資産の大部分が不動産投資に依存しているので、個人消費は戻らない構図です。中国のGDPの30%が不動産投資、そしてもう30%は個人消費と言われています。この個人消費の割合をアメリカや日本のように60-70%程度にまで引き上げる構造改革を行わない限りは、中国景気が本格回復するにはもう少し時間が掛かりそうです。
当面は一時的な避難場所として株式に割安感のある香港株や中国株に資金が流入するという認識で良いのではないでしょうか。
3 本命はインドとドイツ
トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対して、各国の軍事費の割合を対GDP比で5%に引き上げるように要求しています。これまでは軍事支出のほとんどをアメリカが負担していますので、ただほとんどのNATO加盟国は対GDP比でまだ2%にも達していませんので、今後は軍事関連予算の大幅引き上げが予想されます。その中でもドイツは最有力国です。戦後レジームの脱却を目指してドイツは国家予算から軍事関連予算を引き離し、国債の発行によって軍事予算を拡大させることを計画しています。ドイツは今後、軍事大国になるはすです。
もう一カ国は、人口世界一に躍り出たインドです。インドは労働生産人口が若く、これから個人消費の爆発に期待が持てます。またインドはインフラが整っていませんので、高速鉄道や新幹線の施設、港湾の整備、橋や道路の建設等、経済発展の段階が日本の昭和40年代の状況と類似しています。インドは毎年7%前後の成長を達成できる唯一の大国だと思われます。アメリカからどこの国に資金流入が起こるのか株式投資家にとっては楽しみがまた増えました。
(資料)香港IPOの推移(2015年‐2025年 それぞれ上半期)
「ちょっとお笑い、アトム&ジュエリー」
アトム: ドイツはアメリカに対して本気になってきたんとちゃうかあ? ドイツ側の話では中国人民解放軍の軍艦が紅海でドイツの偵察機にレーザー照射したっていう話やん。表向きは中国とドイツの問題に見えるけどなんか変やろ?
ジュエリー:ドイツの国内向けのプロパガンダ?かな。日本と同様に差し迫った脅威がないと考えているドイツ国民も少数居て、彼らを説得する為に中国との小競り合いを演出している可能性があるものね。
アトム:そやろ? ドイツ国民としてはトランプ氏にコケにされて、「ほんなら軍事予算を5%に引き上げたるわ。黙ってみてろ。」みたいな感じなんとちゃうんかな。さすがゲルマン民族!本気にさせたらマジ怖い。一つの民族を消そうとしていた民族やからね。
ジュエリー:日本も移民に対しては相当うるさくなってきたね。最近は不法移民を敵に回して、票につなげる政党が増えてきたものね。
アトム:いや~、実際にめっちゃ問題だらけやからね。日本の良い文化がほんとに廃れていきそうで怖いわ。
ジュエリー:まあアメリカや欧州の移民政策の失敗を見ても明らかなように、外人さんには移民するよりも、短期滞在でお帰り頂く方がいいのかもね。
アトム:やっと日本人も理解し始めたってことやわ。暗い日本にもようやく光が灯り始めようとしてるんとちゃうか? ト・ランプ(💡)ってか。
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
香港在住。
1995年にイスラエル人パートナーと共同経営でICGグループを設立。プライベートバンキングとファンドマネジメントを中心とした金融事業に精通。
ヘッジファンドやエクイティファンドを運用し、経験値と実績を積み重ねる。2022年には金融事業の一部を香港の上場企業に売却。
香港では米系華僑のアトラス・キャピタル社のレスポンシブル・オフィサーに就任し、華僑系の資産運用も一任されている。
香港から見た国際経済・国際金融についてユダヤ・華僑富裕層から得た情報を元に、日本国内では独自の切り口で上場企業や各団体の依頼で講演活動を行う。
著書多数。
https://www.icg-overseas.com/blog
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