生成AI(GAI)の急速な拡大と、それに伴う、ガバナンスや法規制の重要性、そしてGAI導入に向けた実行支援について、中国本土および香港の両視点で包括的に解説します。
中国では、百度(Baidu)、Zhipu AI、MiniMax、Alibaba、Baichuan、Yidu Techなどの企業が生成AIの分野で急速に発展を遂げており、テキスト・画像・動画・音声・検索・開発支援など多岐にわたる分野でGAIが活用されています。これにより、従来のBI(ビジネスインテリジェンス)がデータから「判断・予測」するのに対し、GAIは「生成」の力で業務効率化を加速させています。具体的な活用例として、ドキュメント要約や管理、社内ヘルプデスクのチャットボット化、経費精算の自動化、人事業務での採用支援やパフォーマンス評価、サプライチェーンにおける在庫管理や異常検知、経営意思決定サポートが挙げられます。
特に注目されるのは、「AIエージェント」技術の発展です。AIが自律的に環境を認識し行動するエージェントや、複数のAIが連携する「マルチエージェント」システムにより、複雑な業務プロセスの自動化が現実のものとなっています。これにより、商品開発では市場トレンドや顧客フィードバックを分析して新商品案を提示し、購買では過去の取引データから最適なサプライヤーを提案、製造・物流では需要予測に基づく生産計画の立案や製品の外観画像からの異常検知、マーケティング・販売では顧客の行動履歴からパーソナライズされた商品提案、顧客サポートではFAQや取扱説明書を統合して的確な回答を提供するといった高度な業務遂行が可能になっています。
一方で、GAIを適切に活用するには中国本土特有のガバナンスや法規制への準拠、管理体制の整備、中国本土のAI環境への理解、AIの信頼性の判断基準の設定など、さまざまな課題があります。これらの要因が重なり、AI投資の効果検証やリスクマネジメントに踏み切れない状況が見受けられます。
具体的には、GAIの利用にあたり厳しい法規制が課されており、主な規制としては、「インターネット情報サービスアルゴリズム推薦管理規定」、「インターネット情報サービスにおけるディープ・シンセシス管理規定」、「生成AIサービス利用暫定弁法」、「生成型人工知能サービスの基本的なセキュリティ要件」、「AI安全ガバナンス枠組みVersion1.0」、「人工知能法」が挙げられます。これらの規制は、アルゴリズムの届出義務、セキュリティ評価の義務、生成コンテンツへのラベリング義務、個人情報保護、安定性の確保、過度の依存防止などを企業に求めています。したがって、日系企業は中国国内でGAIを導入するにあたり、こうした法規制への準拠が不可欠であり、今後も当該法規制についてはアップデートや更なる法律の制定が予定されています。
GAI導入にあたっては、単に技術を導入するだけでなく、「AI利用計画(費用対効果の測定)」と「AIガバナンス体制の構築」という二つの柱が重要です。具体的なリスクとしては、中国法規制違反、個人情報や機密情報の不正出力、データの域外送信、学習データへの不正アクセス、GAIサービスベンダーの変更やAIツールの誤った選択、AI生成結果の真偽の見誤りなどがあり、これらに対応するための包括的なリスクマネジメントが求められます。
【香港におけるGAIの主なユースケース及び留意点】
香港でも金融、小売、物流、教育、医療、法律などの分野でGAIの導入が進んでいます。具体的なユースケースとして、以下が挙げられます。
金融・保険業:与信審査の補助、顧客向けレポートの自動生成、不正取引の兆候抽出、チャットボットによるカスタマーサポート。
小売・マーケティング:顧客の購買履歴やSNS行動を分析したパーソナライズされたプロモーションの生成、商品説明文や広告コピーの自動作成。
法律・コンプライアンス:契約書のドラフト作成やレビュー、規制関連文書の要約、法的質問への回答支援。
教育・研修:学習者向けのカスタマイズ教材生成、社内研修用シナリオ作成、多言語対応の学習支援。
医療・ヘルスケア:患者対応のための要約文生成、診療記録の効率化、研究資料の要約や翻訳。
IT・サポート:社内ヘルプデスクのAIチャットボット化、エラーログの分析と対応提案、開発ドキュメントの自動生成。
香港では、中国本土のような具体的かつ厳格な規制が存在しないため、比較的柔軟なGAIの活用が可能です。しかし、生成AIは誤った情報(ハルシネーション)、偏り(バイアス)、個人情報の漏洩など、見えないリスクをはらんでいます。規制が存在しないからといって、AIガバナンスを軽視した結果、重大な事故を発生させる可能性があります。
AIガバナンスとは、「AIを安全・公正・責任を持って活用するための組織的な仕組み」のことであり、技術的な管理だけでなく、経営責任・リスク管理・倫理・コンプライアンスを統合的に取りまとめる枠組みから、もはや技術的な補助ではなく、経営戦略の根幹をなす重要な要素といえます。
AIガバナンスは、「規制されて使いづらくなる」のではなく、「安心・安全・持続可能なAI活用で、差をつけられる」ための経営インフラといえます。
「AIで競争に勝つ企業」は、技術力だけでなく、ガバナンス力でも差がつく時代と言っても過言ではありません。
こうした状況を踏まえ、デロイトはGAI導入に向けた包括的な支援を提供しています。構想策定から始まり、戦略策定、PoC(概念実証)開発、基盤構築、ガバナンス体制の確立に至るまで、一貫したサポートを提供します。独自のLLM開発や、自社内で利用する安全なAIプラットフォームを活用した開発支援も可能です。また、AIガバナンスの枠組み構築、規程やガイドラインの策定、AI人材育成、セキュリティ評価、緊急対応体制の構築など、ガバナンス面の支援も同時並行で行っています。
Hiroyuki Yano(矢野 寛之)
Deloitte Touche Tohmatsu 香港事務所
日系企業サービスグループ / マネジャー
公認会計士
- 有限責任監査法人トーマツに入所後、グローバル展開する製造業(主に食品)及び小売業を中心に、建設業・商社・パブリックなどの会計監査や上場会社の法定監査及び内部統制監査並びに会社法監査に従事
- その後、監査アドバイザリー事業部に所属し、IFRS導入支援・海外子会社管理・内部統制構築支援・DX化支援等のアドバイザリー業務にも従事し幅広い業務を経験
- 現在は、Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所にて、主として日系企業の会計監査コーディネイトや課題解決のためのアドバイザリー業務を提供
日刊香港ポストは月曜から金曜まで配信しています。ウェブ版に掲載されないニュースも掲載しています。時差ゼロで香港や中国各地の現地ニュースをくまなくチェックできます。購読は無料です。登録はこちらから。





