2019年度以降、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、感染症により多くの人々が犠牲となりました。感染症防止のため世界の主要都市では、都市封鎖や市民の行動制限が行われ、経済・社会も深刻なダメージを受け、世界的に社会や組織のサステナビリティへの関心が高まりました。2021年10月下旬には、イギリスのグラスゴーで開催される国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催され、特に各国の環境保護対策への協力について関心が寄せられています。
筆者が居住する香港においても、企業による環境、社会をサステイナブルに発展させていくEnvironmental,Social and Govenance (ESG) のイニシアティブが活発に動き始めており、第三者機関の調査(ランキング下記参照)によると、香港は2021年3月時点でESGに関する活動が徐々に高まっていることが確認できます。

本稿においては、香港に上場する企業のESG開示を概観します。
香港のESG開示の基礎情報
香港証券取引所へ上場する企業は香港交易所(“HKEX”)が発行する上場規則のAppendix 27‥Environmental, Social and Governance Reporting Guideに従って、ESGに関する開示要求が要求されています。
ESGの開示は毎年報告することが求められ、年間の財務報告書(日本の有価証券報告書に類似)の期間とESGの報告期間を一致させます。財務報告書の発行と同時期に開示することが望ましく(同時期に開示できない場合は、遅くとも決算日から5か月以内)、財務情報と同じ報告書内で報告するか、またはESGレポートを財務報告とは別に報告するか、選択できます。ESGの開示情報はHKEXおよび上場会社のウェブサイトで開示します。
ESGの戦略および報告の包括的な責任は取締役会に存在するとされており、ESGレポート内で取締役会は、ESGの課題に関する監督状況、ESG戦略およびアプローチ、モニタリングの進捗状況について開示する必要があります。
ESGの開示は、コーポレートガバナンスコード(上場規則のAppendix 14)と同様に、開示が必要な事項と、開示するか否かを選択できる開示事項の2つが定められています。なお開示するか否かを選択できる事項について、開示しないと決定した場合は、なぜ開示しないかについての説明を補足する必要があります。
HKEXは2019年12月にESG報告のフレームワークを更新し、2020年7月1日以降に決算年度が開始する香港上場会社に対して、新たに環境および社会の領域について、開示するか否かを選択できる開示事項を追加しました、以下では、新しく開示するか否かを選択できる開示事項となった項目をご紹介します。
香港のESG開示についての更新事項

新開示にするか否かを選択する項目として、新たに図表1が追加されました。従前まで単に開示の推奨でしたが、開示するか否かを選択する項目として図表2が追加されました。
これらについて開示しない場合は、なぜ開示しないかについて説明を補足する必要があり、ESG報告のフレームワークの更新前と比較すると、開示の要求が増加していると言えます。
デロイトの提供するESG関連サービス
今回の寄稿では、香港におけるレギュレーション(上場規則)によってESGの開示要求が増加していることを記載いたしました。香港の証券取引所に上場する日系企業は、単に要求された情報の追加開示をするにとどまらず、ESGを考慮した経営戦略の立案、ガバナンス・リスク管理の整備・運用の高度化していくことを通じて、開示を拡張を図ることが期待されます。お問い合わせ・ご質問事項等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
筆者紹介
竹内 裕一(たけうち ゆういち)
デロイト香港事務所
リスクアドバイザリー部門ディレクター。日本国公認会計士の有資格者。
日本、香港、インドでの会計事務所での勤務を経て、2014年3月より現職。海外現地法人のオペレーションリスクへの対応、不正対応、内部監査支援やSOX法への対応支援を専門として、香港、中国華南に進出する日系企業に対してサービスの提供を行う。
連絡先:yuitakeuchi@deloitte.com.hk
サイト:www.deloitte.com/cn
*本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。

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