香港中文大学で1月30~31日、同大学と上海の復旦大学が設立した滬港連合発展研究所の年次会議が開催された。同会議では「グローバリゼーションの再構築と中国の発展」をテーマとし、香港に関するセッションでは専門家たちが香港の「北部都会区(北都)」開発が直面する課題とその解決策について深く議論した。中国の第15次5カ年計画(2026~30年)に呼応して香港では自身の5カ年計画を策定することになったが、北部都会区の開発プロジェクトはその重要な柱となる。日本企業にとっても大きなチャンスが潜んでいることだろう。(編集部・江藤和輝)
前立法会議員の劉国勲氏
会議では、北部都会区諮詢委員会委員で前立法会議員の劉国勲氏が「北部都会区の開発を有効に活用し第15次5カ年計画に乗り入れる」と題して講演。北部都会区の戦略的位置付けとして、香港の将来の発展の中核的エンジンとなるほか、香港経済の転身と地域との融合を推進するという重要な使命を担っていると指摘。国家の5カ年計画に対してこれまでの受動的な参画から能動的な乗り入れに転換し、世界における「スーパー・コネクター」(仲介人)から「スーパー・バリュー・アダー」(付加価値ハブ)へと進化する機会にすることを提唱している。
第14次5カ年計画では深セン市前海、珠海市横琴、広州市南沙、深センと香港のボーダーにある河套が粤港澳大湾区の主要協力プラットフォームとなっていたが、第15次5カ年計画ではこの河套プラットフォームが北都プラットフォームへとバージョンアップするという。これまでの香港北部の局部的な開発から全域の開発となり、開発作業はプロジェクト協力から体系的で制度的なものに変わり、イノベーション科学技術と産業と生活を深く融合させることを目指す。
前立法会議員の劉国勲氏
北部都会区の専門法例制定
河套合作区は深セン河を挟んで香港側が87ヘクタール、深セン側が300ヘクタールだが、香港側で開発を進めている新田科技城を中心に深セン河両岸の融合を進めることによって香港には対岸300ヘクタールがイノベーション科学技術開発用地として提供されることになる。
こうした北部都会区の開発に向けて制度的イノベーションとして北部都会区の専門法例が制定されることとなっている。この専門法例は単なる土地開発のプロセス加速に関する法令にとどまらず、粤港澳大湾区に乗り入れ改革を深化する実体法として制定される。具体的には①法定産業園区会社を設立②産業園区会社のための特別な予算ルートを開設③越境資金流動を促進④建築プランの審査・認可を加速⑤プロセスを簡素化し計画の制限を調整⑥土地供給を加速――となる。来年初めに意見公募を行い、来年半ばに立法会に条例草案を提出、来年中の立法作業完了を目指している。
このほか劉議員は、香港の競争力を高めるため国際教育ハブとしての「北都大学城」の建設、国際医療イノベーションハブの形成、グリーンテクノロジー・ファイナンスの強みを生かした国家戦略への貢献などを提唱した。
北部都会区開発が直面する課題
香港中文大学上級研究員の馬先標・教授劉議員に続いて、香港中文大学上級研究員で全港各地区工商連合会名誉顧問の馬先標・教授が北部都会区の開発プロセスを振り返った。
戦略的位置付けについては、2021年に香港特区政府が初めて戦略を提唱して以来、北部都会区は香港の今後20~30年間における最も重要な土地・人口受け入れ地域として位置づけられ、粤港澳大湾区の重要な戦略的エンジンと見なされている。計画面積は約300平方キロメートルで、約250万人の人口収容が見込まれる。国際イノベーション科学技術センターの建設と、「住みやすく、働きやすく、訪れやすい」都市の創造を目指す。
だがプロジェクト実施上の課題として、馬教授は、全体的な目標に対する社会コンセンサスの欠如、制度・政策体系の不十分さ、部門横断的な調整メカニズムの未成熟、そして北部都会区に特化した総合的な高度研究機関(シンクタンク)の不在など、いくつかの根本的な制約があると指摘した。
馬教授は、これらの課題に対する具体的な解決策を以下のように提案した。
(1) 独立したシンクタンクの設立:「北部都会区総合発展研究院」の設立を提唱し、学際的な専門家や業界関係者が、戦略的計画から産業計画、制度革新に至るまでの完全な政策体系を提供するよう呼びかけた。
(2) 大湾区全体の協調:香港、深セン、広州といった大湾区の主要都市間における調整不足にも言及し、人材や金融などの分野でのルール統一と「ソフト面での連結」の革新を加速させるよう提案した。
劉氏と馬教授は、香港が世界トップ100大学を5校擁する国際教育ハブであり、世界3大金融センターの一つとしての地位も維持していることに言及。これらの強みを基盤に、香港北部都会区は「アジアの北部都会区、世界の北部都会区」となることを目指すべきと指摘。この目標の実現は、香港の未来を形作るだけでなく、粤港澳大湾区全体の繁栄と国際競争力の強化に大きく貢献すると期待されている。
滬港連合発展研究所の年次会議
南は金融、北はイノベーション科学技術
ちょうど立法会では2月4日、北部都会区の発展を加速・効率化する議員議案が審議された。特区政府創新科技及工業局の孫東・局長は、北部都会区と河套深港科学技術創新合作区の発展は、特区政府が「第15次5カ年計画」に積極的に対応するための重要な取り組みであると述べた。特区政府は北部都会区での「国際イノベーション科学技術新都市」の発展に尽力し、「南金融、北創科」(南部は金融、北部はイノベーション科学技術)という新たな発展構造を構築する。
孫東局長は、香港と深センは河套地区で独自の越境的政策措置の試行を目指し、人材、物資、資金、データなどの「四つの流れ」が区域内で円滑に流動できるようにし、国際的な先進科学技術イノベーション計画試験区となるよう努めると説明した。これにより制度・政策革新の試験場を開拓し、「第15次5カ年計画」提案における高品質発展と科学技術的自立自強の目標要求に応えるという。また政府は昨年12月に香港の新型工業化の中長期的発展に関する研究を開始し、いかにして主体的に国家の「第15次5カ年計画」提案に対応し、国家の新型工業化全体の配置に組み込まれるかを探求していると述べた。
発展局の林智文・副局長は、政府は各方面において北部都会区の発展を加速・効率化しており、開発局は今年第1四半期に北部都会区加速化のための特別法案に関する公聴会を開始すると述べた。その目的は、開発・建設の完成を加速し、産業の進出を促進するための簡素化された法定手続きを策定することである。立法会の支持を得られれば、この特別法案を年内に通過させる計画だという。
林副局長はさらに、企業が将来できるだけ早く進出できるようにするため、開発局は最近、北部都会区の民間プロジェクト審査を加速する行政改革措置を導入したと述べた。これには主要な審査プロセスに時間制限と上級管理層による介入メカニズムを設けることが含まれ、審査を加速するものであり、企業の北部都会区への参加、発展、建設に大いに役立つとの見方を示した。
日本企業にも多くのビジネスチャンス
投資推広署(インベスト香港)の劉凱旋・署長は1月31日、最近、同署が少なくとも30社の北部都会区への進出を希望する中国本土および海外企業と接触しており、現在これらの企業が発展局または創新科技及工業局と連携できるよう支援していると述べた。これらの企業の種類は比較的多様であり、例えば教育分野では、インターナショナルスクールや大学の香港進出を希望するケースもあれば、モダンな物流・倉庫、さらには観光業なども含まれると説明し、あらゆる業種が含まれていると説明。劉署長は、以前は外部企業が土地を必要とする場合、投資推広署は民間デベロッパーに協力を求めてきたが、北部都会区の開発後は無限の機会があると述べた。
特区政府が北部都会区で特に注力している分野は、イノベーション科学技術(医療テクノロジー、人工知能、データ分析など)、環境保護(スマートシティ、グリーンエネルギー)、そしてそれらを支える不動産・インフラ開発である。これら産業は粤港澳大湾区の科学技術クラスターとの相乗効果が期待される。日本企業にとっても北部都会区開発プロジェクトには以下のようなメリットが考えられる。
・地理的・市場アクセスの優位性:深センなど広東省のサプライチェーンや巨大市場への玄関口として活用できる。また香港の法的安定性(コモンロー)や知的財産保護の枠組みを維持しながら、中国本土のビジネスエコシステムに参入しやすいという「両方の良さを活かせる」ポジションを取ることができる。
・特化した産業クラスターへの参画機会:日本が強みを持つ分野へのニーズがある。
・環境技術・スマートシティ:水処理、省エネビル、廃棄物管理などの高度な環境技術に対する需要が見込まれる。
・ヘルスケア・メディカルテクノロジー:高齢化対応や遠隔医療において、日本の介護ロボットや医療機器、ヘルスケアサービスへの期待が高い。
・高度製造業・素材:エレクトロニクスや次世代通信に必要な日本の高機能素材は、深センのテクノロジー企業との連携において強みとなる。
・ビジネス環境の整備・優遇措置:特区政府は北部都会区に進出する企業に対し、賃料補助、税制優遇、研究開発支援などのインセンティブを用意するとみられる。また深センに近いことから、人材の確保も期待できる。
・何よりも約250万人の人口を擁する新たなエリアができるため、さまざまなニーズが生まれることが期待できる。
香港が初の独自5カ年計画を策定
「北部都会区」と並んで今年の香港の重要なキーワードとなっているのが「第15次5カ年計画」である。この2つのキーワードは完全に表裏一体の意味を持つ。
李家超・行政長官は2月2日、特区政府が新たなメカニズムを導入し、国家の5カ年計画と全面的に対応していくと明らかにした。全国人民代表大会(全人代)と中国人民政治協商会議(政協)の年次総会(両会)が3月初めに国家の「第15次五カ年計画」綱要を審議するが、李長官は、香港が初めて独自の5カ年計画を策定し、国家の「第15次五カ年計画」への対応に関する枠組みを定めると述べた。李長官自らが局や部門を超えた政府全体の専門チームを率いて調整を図る。
李長官は『信報』とNow TVのインタビューで、今年は「第15次五カ年計画」の開始年に当たり、香港も相応の手配をしなければならないと語った。李長官は、香港自身の5カ年計画は重点発展分野についてより詳細な展開計画を行い、国家の5年、10年あるいはさらに長期的な計画に対応できることを期待していると述べた。「第15次五カ年計画」綱要の全文が公表された後、その内容の詳細に基づいて、国家の全体的な発展と香港関連部分に能動的かつ全面的に対応していくと説明した。
進む英国植民地時代からの脱却
12日には李長官が「国家発展大局への融合推進督導会議」を主宰し、全司局長を率いて国家の「第15次5カ年計画」に対応する準備作業を開始した。李長官は各政策局に対し予備チームを設置して準備作業を開始するよう指示し、第15次5カ年計画の内容と詳細が正式に発表された際には、この予備チームを第15次5カ年計画対応策定チームに改組し、全速力で作業を進め、年内に第15次5カ年計画に対応した「香港5カ年計画」を完成させる目標を掲げた。李長官は会議で、特区政府を主導して体系的な政策枠組みを構築し第15次5カ年計画に主体的に対応し、重点発展分野についてより全面的かつ精確かつ詳細な戦略的配置を行い、香港がより良く国家発展の大局に融合し貢献するよう推進すると強調した。
李長官はソーシャルメディアで、第15次5カ年計画に対応する「香港5カ年計画」は、マクロ的、戦略的、先見性を備えた重要な文書となり、今後5年間の発展ビジョン、核心目標、重点分野、重大措置を描き出し、香港の社会経済・民生発展に明確なロードマップとタイムテーブルを提供するものであり、政府全体、省庁横断、多分野にわたる投入と協力を必要とすると述べた。全関係者は改革志向の思考を持ち「香港5カ年計画」が先見性とマクロ的な戦略発展方向・目標を確実に備えるようにしなければならないと指摘。第15次5カ年計画の「香港5カ年計画」は影響が深遠であると述べた。自らがこの作業を主導し、政制及内地事務局が主責を担い、各司長が全力で推進し、各局長が全力で支持・参加することになるという。
2006年に発表された第11次5カ年計画(06~10年)で香港に関する記述が初めて盛り込まれて以来、紆余曲折を経て今年いよいよ香港独自の5カ年計画が策定されることとなった。英国からの主権返還後、国家への融合がゆっくりながらも着実に進んでいるともいえる。
日刊香港ポストは月曜から金曜まで配信しています。ウェブ版に掲載されないニュースも掲載しています。時差ゼロで香港や中国各地の現地ニュースをくまなくチェックできます。購読は無料です。登録はこちらから。





