香港における事業所得税の解説
直近期決算ではコロナ禍の影響を受けて多くの会社が決算業務にご苦労されたものと思われます。今号の発行される8月中旬は、12月決算の会社が税金計算を行う時期です。本稿では香港の事業所得税の基礎的な項目について解説します。(デロイト トウシュ トーマツ香港事務所 田和 大人)
⒈概要と特徴
⑴事業所得税の概要
香港で事業を営む者は、課税対象となる各課税年度の事業所得税を計算し、税務申告書を所定の期間内に提出する必要があります。IRD(Inland Revenue Department、内国歳入庁)はその税務申告を基礎に納税者の課税所得を査定し、賦課決定通知書を納税者に送付します。納税者はその賦課決定通知書に異議がなければ、その課税年度の確定納付額ならびに翌課税年度の予定納付額を指定された期限内に納付する必要があります。
課税対象となる事業所得は、以下の3つの要件を満たすものとされています。
①香港内で事業活動を行っている
②香港内で行った事業から得られた所得である
③香港内で生じた所得である(香港外からもたらされた所得ではない)
上記の定義から、香港内で生じたものではないオフショア(香港域外)所得・損失、及び事業活動から生じたものではないキャピタルゲイン・ロスは課税対象外となります。
⑵決算期と税務申告期限
税務課税年度中(4月1日から3月31日まで)に終了する決算期に対して、通常は4月1日付でIRDが申告書用紙を発行し、納税者へ送付しますが、原則として、その発行日から1カ月以内に申告書を作成しIRDへ提出する必要があります。ただし、会社決算期の時期に応じて延長期限が定められており、申請により延長が可能です(表1)。 なお、今年度はコロナ禍の影響により申告書用紙は1カ月遅れての発行となっています。
⑶会計監査と税務申告の関係
香港の会社法上、すべての株式会社に会計監査が要求されています。税務申告においては、実務上、税務申告書と一緒に提出する財務諸表に公認会計士による会計監査報告書を添付します。
⑷税金計算時の特徴的な項目
香港の事業所得税の計算において、特徴的なものとしては主に以下のような項目があります(表2)。
⒉納税義務者
事業所得税は法人・個人事業主・パートナーシップ等で香港において事業活動を行うことにより、香港を源泉とする利益を得ている者が納税義務者となり、香港居住者・香港法人と非居住者・外国法人の課税関係は同じです。つまり、支店または駐在員事務所を有する外国法人、それらを有しない外国法人または非居住個人であっても、香港内で事業活動を行っており香港源泉所得がある場合は、納税義務が発生します。
一例として、外国法人が香港内の輸入業者に物品を販売しただけでは、香港内で事業活動を行っているとは解されません。一方、その外国法人が香港内にオフィスを構え、駐在員を派遣または従業員を雇用して販売活動(受注・発注・営業等)を行っている場合には課税されると解されます。駐在員事務所は本来、営業活動を行わないものとされているため、事業所得税は課税されないはずですが、実態に応じて、IRDから実質的に営業を実施しているものと判定され課税されるリスクがある点には注意が必要です。
⒊税率
香港の税率は低く設定されており、事業所得税の税率は法人は16・5%、法人以外の個人やパートナーシップ等は15%の標準税率となっています。また、2018/2019事業年度よりさらなる減税施策として、再保険事業など適用不可の一定の例外を除いて、2段階税率が導入されており、200万香港ドルまでの課税所得に対してはその半分の税率(法人8・25、それ以外7・5%)、200万香港ドルを超える所得に対して標準税率が適用されます。ただし、2段階税率を適用できるのは、連結グループ内における1社に限られます(適用詳細はIRDのhttps://www.ird.gov.hk/eng/faq/2tr.htm参照)。
⒋課税所得計算の概要
課税所得は、一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成された包括利益計算書の税引前利益に、IRO(Inland Revenue Ordinance)の規程及び実務慣行に従った税務上必要な加減算の申告調整を行い算定します。具体的には、例えば収入の場合、オフショア所得、資本性資産売却所得(キャピタルゲイン)およびその他の非課税所得を減算し、みなし営業収入を加算します。費用についても税務上容認されない会計上の償却費や引当金などの加算、税務上容認される項目の減算を行います。
いくつかの主要な申告調整項目を例に、企業会計上の利益と課税所得との関連をイメージにすると以下の通りです(表3)。
⒌終わりに
2019/2020課税年度については、コロナ禍に対する減税施策として2万香港ドルを上限に事業所得税が減免されます。その他、一定のIT投資に対する補助金制度など様々なコロナ禍に対する政府支援策が用意されていますので、法人のご担当者および自営業者は活用できるものがないかよく確認することが重要と考えられます。
筆者紹介
田和 大人(たわ ひろひと)
デロイト トウシュ トーマツ香港事務所
日系企業サービスグループ シニアマネジャー 日本国公認会計士
メガバンクでの勤務を経て2006年監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)に入所し、サービス業の金商法監査などに従事。その後金融インダストリーグループに所属し、大手保険会社の監査業務を中心に金融業の監査およびアドバイザリー業務に従事。2011年より3年間、金融庁検査局に出向し、検査官として主に大手損害保険会社を対象とした検査業務に従事。2019年6月よりデロイト トウシュ トーマツ香港事務所に駐在し、日系企業に対する各種アドバイザリーサービスを提供している。
連絡先: hitawa@deloitte.com.hk
サイト:www.deloitte.com/cn
※本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。
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