2月28日に始まった米国とイスラエルによるイラン攻撃も3カ月が経過しましたが、報道によると間もなく終戦合意が成立しそうです。今回の戦争は米国の「敗戦」と見られており、今後の世界情勢に於いて重要な転換期となるでしょう。(文:清水 泰雅)
米国が戦争に負けていることは広く認識されている
まず、世界情勢の現実を正しく認識すること。その上で日本の外交政策を世界の潮流に逆らわず再構築しなければ、日本の将来は厳しい状態に置かれるしまう現実を受け入れなければならない事をお伝えしたいと思います。
今やネオコン(新保守主義)のタカ派でさえ米国がイランに負けていることを認めており、彼らは、イランの勝利はアメリカの覇権の衰退と多極化の台頭を反映していると嘆いています。(本コラムは5月25日に執筆)
日本ではあまり報じられていませんが、欧米メディアは米国がイランに負けつつあると開戦後1カ月も経過していない時期から報じています。
英国の新聞「インデペンデント」は3月25日に「トランプ大統領の必死の和平努力は、彼が戦争からの脱却を望んでいることを示しており、イランが明らかに勝者となるだろう」とのタイトルで記事を配信しました。
インデペンデント記事(2026年3月25日)
4月13日にはウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が「少なくとも今のところ、イラン戦争は失敗しているようだ」との論説を配信しました。
WSJ記事(2026年4月13日)
WSJ記事:
https://www.wsj.com/opinion/for-now-at-least-the-iran-war-seems-to-be-failing-832a0e60
この記事を書いたのは、同紙の元編集長で保守派のジェラード・ベイカー氏であり、かつてはトランプ支持者でした。
トランプ大統領はイランの石油輸出を阻止しようと、ホルムズ海峡の米海軍による海上封鎖を宣言しました。しかし、米国の情報当局者はワシントン・ポストの記事で、イランは数ヶ月間この米国の軍事封鎖に耐えることができると認めています。記事のタイトルは、「米情報機関、イランはトランプ政権のホルムズ海峡封鎖を数ヶ月間乗り切れると述べる」。
ワシントンポスト記事(2026年5月7日)
ワシントンポスト記事:
また、米国の情報機関は米国のメディア各社に情報を流し、戦争が非常に不利な状況にあることを明らかにしています。
5月12日にはニューヨークタイムズ(NYT)が、「米情報機関、イランが依然として相当なミサイル能力を保持していることを明らかに」とのタイトルで記事を配信しました。
NYT記事(2026年5月12日)
NYT記事:
https://www.nytimes.com/2026/05/12/us/politics/iran-missiles-us-intelligence.html
最も多くの人を驚かせたのは、軍産複合体の機関誌とも言われるアトランテックが5月10日に配信した記事です。
アトランティク記事(2026年5月10日)
アトランティク記事:https://www.theatlantic.com/international/2026/05/iran-war-trump-losing/687094/
記事のタイトルは「イランにおけるチェックメイト」で、副題は「ワシントンはこの戦争に敗れた結果を覆したり、制御したりすることはできない」でした。
この記事の著者はロバート・ケーガン(Robert Kagan)で、おそらく最も影響力のある新保守主義の知識人です。ケーガンは、アメリカによるイラク侵攻を当初から主張していた人物の一人であり、イランに対しても同様の戦争を起こすべきだと長年主張していた。また、ケーガンは、新保守主義の教会とも言える存在だった影響力のあるシンクタンク、新アメリカ世紀プロジェクト(PNAC)を共同設立した人物です。このような新保守主義者で好戦派の大物がイラン戦争の負けを公然と認める記事を配信したのです。
記事でケーガンは、以下の重要な点を書いています。
「今回のイランとの対立における敗北は、(ベトナム戦争やアフガニスタン戦争における米国の敗北とは)全く異なる性質のものとなるだろう。それは修復することも、無視することもできない。 開戦前の状態に戻ることはあり得ず、米国が最終的に勝利を収めて、これまでの損害を帳消しにしたり克服したりすることもできない。ホルムズ海峡はかつてのように「開かれた」状態には戻らない。海峡を支配することで、イランはこの地域における主要プレーヤー、そして世界における主要プレーヤーの一人として台頭する。イランの同盟国である中国とロシアの役割は強化され、米国の役割は大幅に縮小する。戦争支持者が繰り返し主張してきたように、この紛争は米国の力量を示すどころか、むしろ、米国が信頼できず、始めたことを完遂できない国であることを露呈した。米国の失敗に同盟国も敵国も対応を迫られる中で、世界中で連鎖反応が起こるだろう。」
閉ざされた日本の情報空間
英語ニュースでは、上述したように米国とイスラエルによるイラン攻撃に関して時系列で状況を伝えており、結論としては米国の負け戦となったことを示唆しています。
日本国内の報道はどうでしょうか?未だにイランが米国に勝てるはずがないと言う論調も目にします。これは、米国が勝つのが当たり前、買って欲しいと願う人たち(勢力)が生み出した願望的な世論なのでしょう。
唯一の同盟国である米国に追随する日本は、米国が勝利し自らも有利な立場を維持し続けたいとの思惑で進んできたのだと思います。すぐには現実を受け入れられないかもしれませんが、世界は急激に変化しています。今までの外交政策は、速やかに改定する必要に迫られることでしょう。
高市首相の台湾有事発言により、中国のレアアース輸出規制による影響も今後は徐々に表へ出てきます。トランプ大統領も訪中し、とりあえずは米中も停戦状態になった今は、日本だけが蚊帳の外の置かれた状況にも見えます。
中東紛争に関係してナフサ不足の問題も影響が大きくなっていますが、政府は未だにナフサは足りているとの主張を続けています。現実(現場)と乖離し過ぎており、世論も政府に対して懐疑的な見解が増えてきているように思います。
与えられた情報を鵜呑みにするのではなく、自らの生活や会社を守る為には海外の情報(日本語以外)にも目を向け、そして精査し、世界が激しく変化する厳しい状況を乗り切って欲しいと思います。
注)本コラムは、一部Ben Norton氏の記事を参考にしています。https://geopoliticaleconomy.com/2026/05/23/war-hawks-iran-defeat-us-trump/
【筆者紹介】
清水 泰雅(しみず やすまさ)
STECO GLOBAL LIMITED (香港)CEO、上海清環環保科技有限公司(STECO)董事長、安立飛商務信息諮詢(上海)有限公司 董事長
1961年愛知県名古屋市生まれ。90年より愛知県で空調ダクト洗浄の専業サービス業を創業。2005年、中国上海市に独資にて法人を設立後、今日まで中国ビジネスに携わっている。JETRO、自治体、証券会社などをはじめ彼らが主催する中国関連セミナーでの講演多数。2015年以降は、大手コンサルティング企業とも連携し、数多くの中国ビジネス案件に注力している。
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