国際情報誌記者として長年にわたり中国や世界情勢を分析してきた富坂聰氏に、緊迫化する中東情勢と複雑化する米中関係の行方、その中で日本が取るべき外交戦略について詳しくお話を伺いました。(4月16日取材 聞き手 楢橋里彩)
【プロフィール】
富坂 聰(とみさか さとし)
愛知県出身。中国北京大学中文系中退後に『週刊ポスト』記者、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、「龍の伝人たち――天安門事件からの5年の空白――」で第1回21世紀国際ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。2014年から現職。近著に「おそるべき『中国一強』時代」(小学館新書)、著書に「中国という大難」(新潮文庫)、「北京『中南海』某重大事件」(講談社)、「中国の地下経済」(文春新書)がある。
中東情勢の緊迫化がもたらす影響
――中東情勢、特にイランを巡る緊張の高まりが、世界経済、そして日中間の貿易や投資にどのような具体的な影響を及ぼすとお考えですか。
世界が景気後退に陥るリスクが確実に高まっています。特にホルムズ海峡の封鎖で物流が止まり、エネルギー供給のみならず、あらゆるサプライチェーンに大きな支障を来すことになります。日中間の貿易や投資も、こうした大きな環境変化の影響を免れることはできないでしょう。サプライチェーンの脆弱性が露わになり、両国の企業は供給網の多角化と強靭化、いわゆる「サプライチェーン再編」を迫られることになると考えます。
――日本や中国は、こうした状況下で、どのようにしてエネルギー安全保障を確保すべきでしょうか。
これまでのように一つの供給源への過度な依存には大きなリスクが存在します。エネルギー安全保障を確保するためには、調達先の多角化が最も現実的な解の一つです。日本にとっては、中東依存度を軽減するため、ロシアを含め、中南米や東南アジアなど多角的なエネルギー調達戦略が現実的に重要になってきます。中国も「一带一路」構想をさらに推進し、陸路を含む多元的なエネルギールートの確保に力を入れるでしょう。根本的には、「自分たちの生活を安定的に護っていくのは自分自身」という認識が極めて重要です。国内におけるエネルギー資源の開発や、備蓄体制の強化などは言うまでもありませんが、再生可能エネルギーを発展させることを真剣に考える段階に来ています。
米中関係と中国の戦略
――米国とイスラエルによるイランへの攻撃は、中国の世界戦略に影響を与え、その限界が露呈したとの指摘もあります。中国は米国やイランといった各国と、どのように関係を再構築していくと考えられますか。
中国は明らかに二つの道を並行して進めようとしています。一方で、「中国はアメリカと関係をうまくしたい」という本音があります。他方で、アメリカ一極集中の世界を変え、「非アメリカの世界を広げていく」 という戦略も堅持しています。イランに対しては、これまで通り経済面や友好国としての関係、さらに「上海協力機構」を通じた協力関係を維持しつつも、アメリカとイランが直接衝突するような事態については、極力巻き込まれないように注意深く振る舞うと考えます。中国の影響力にも限界があり、アメリカが求めるようなイランへの働きかけはできないし、するつもりもないでしょう。
――良好な関係を維持してきたイランに対し、中国は今後どのような立ち位置で関与していくとお考えでしょうか。
中国にとってイランは、エネルギー供給源であると同時に、中東地域における重要な戦略的パートナーです。この基本姿勢は変わりません。しかし、あくまで主眼は自国にとっての経済的な利益と中東地域との安定した関係の確保にあります。湾岸諸国ともイスラエルとも一定の良い関係を保ってゆくつもりでしょうから。日本で巷間言われるような偏った外交はしないと思います。
激変する国際情勢の中で日本が取るべき外交戦略
――米国の覇権が低下する中、日本は防衛、エネルギー安全保障、地域安定化のため、近隣諸国との協力をどう強化すべきでしょうか。
この核心は「ミドルパワー」としての生き方にあると思います。「グレートパワーゲームになっている」のが現在の国際社会です。こうした中で、日本や韓国といったミドルパワーは、「グレートパワーに利用されていく」危険性を常にはらんでいます。それを避けるためには、グレートパワーとどう接点を持つかが焦点となりますが、なかでも「日本・中国・韓国の関係強化」ができるか否かにすべてがかかっていると私は確信しています。歴史的な問題は山積みですが、安全保障やエネルギー、貿易といった具体的な共通利益から協力の枠組みを築き、地域全体の安定と繁栄に貢献する。それが結果的に、日本の国益にもかなうのです。
—(続く)
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