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インタビュー

ドキュメンタリー映画「香港四徑大歩走(FOUR TRAILS)」を自主製作 ロビン・リー監督

特別企画インタビュー②

「個人の挑戦を描きたかった」

ロビン・リー監督 

ドキュメンタリー映画「香港四徑大歩走(FOUR TRAILS)」 を自主製作

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総距離298キロの香港のウルトラトレイルイベント「Hong Kong Four Trails Ultra Challenge」(HK4TUC)を追ったドキュメンタリー映画「香港四徑大歩走(FOUR TRAILS)」が1月2日から地元映画館で正式上映され、話題を集めている。イギリス人映画監督、ロビン・リーさんに話を聞いた。

HK4TUCとは》

2012年に香港在住のドイツ人、アンドレ・ブルンベルグさんが創設。72時間以内に香港内の4つの主要トレイルコースの完走を目指すイベントで、毎年春節(旧正月)に開催されている。賞もメダルなく、順位もない。コース間の移動以外は、基本的に自力で走破することが求められる。参加者は自ら参加動機を書いて応募する必要があり、アンドレさんが選考、招待している。ルール改正も頻繁に行われているが、毎年少なくない応募がある。

4つのトレイルコースは、新界地区を東西に横断する麦理浩徑(マクリホーストレイル、100キロ)、新界北部から香港島南部までを縦断する衛奕信徑(ウィルソントレイル、78キロ)、香港島の港島徑(香港トレイル、50キロ)、大嶼山(ランタオ島)の鳳凰徑(ランタオトレイル、70キロ)。HK4TUCはマクリホーストレイルの屯門からスタートし、ウィルソン、香港の二つのトレイルを経て、ランタオトレイルのゴール・梅窩(ムイオー)を目指す。

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ロビン・リー監督=1月23日午後、香港島・赤柱(スタンレー)

――HK4TUCを題材に「FOUR TRAILS」という映画をつくろうと思った理由は。

私にとって初めての長編映画になりますが、先にHK4TUCの短編映画「Breaking 60: Challenging the Impossible」(2017年)を監督しました。普段は小規模なコマーシャルやブランドコンテンツの監督をしたり、人物などのプロフィール動画を撮影したりしています。今はドキュメンタリー映画監督とも紹介していますが、さまざまな立場で仕事をしています。

FOUR TRAILSは、Breaking 60の続編です。撮影当時、60 時間の壁を誰も突破したことがありませんでした。私は 4 人のランナーを追いかけたのですが、そのうちの 2 人が初めて 60時間を切ることに成功しました。映画のタイトルが「Breaking 60」となったゆえんです。

改めて映画を製作することにしたのは、カバーできていないことがまだまだたくさんあったからです。FOUR TRAILS では全ての人たちの物語を伝えたいと思ったのでした。「生還すること」、つまり、(制限時間いっぱいの)72時間以内に完走した人たちの話です。私にとっては速いランナーと同じぐらい心が揺さぶられる。なぜならHK4TUCはメダルを獲得したり、賞をもらったりするようなイベントではないから。ただ自分自身の挑戦だけなのです。

――映画を通して伝えたかったことは何でしょうか。

彼ら(ランナー)は常に自分自身に挑戦し、それが可能かどうかを確かめようとしています。一方で、それぞれ違う限界も抱えています。なので、伝えたかったことは一人一人の個性や挑戦に対するアプローチの違いでした。それはFOUR TRAILSを象徴するものだからです。

もう一つは、ランナーたちは皆、日常生活を送っている人たちであるということ。金融関係の仕事をしている人もいれば学生もいる。プロのアスリートでもない。普通の人々が並外れたことをしてみせる。とてもエキサイティングな話です。

――構想から完成までの苦労は。

構想はイベントの半年ほど前です。大会前までランナーへのインタビューや家族とのひととき、練習風景、理学療法などを撮影しました。ランナー1人のラジオのPodcast(ポッドキャスト)の番組出演も含まれます。半年間がかりで彼らのストーリーを作り上げていきました。それから本番の3日間のイベントを撮影し、その後インタビューも行いました。編集には2年かかったと思います。

時間がかかった理由の一つは、私と弟の自主製作だったからです。私はFOUR TRAILSの編集をしながら、CMの監督の仕事や撮影の手伝いにも追われ、常に行ったり来たりしていました。そのプロセスは私が望むよりも少し長かったかもしれません。しかし、時間がかかったからこそ、全ての情報を取り入れられたので結果的に良かったと思っています。ミュージシャンと映画の音楽をつくったり、グラフィックチームとも仕事をしたりしました。

――「YouTube(ユーチューブ)」で関連の内容を配信する人もいます。映画という手段を選択された理由は。

この映画がどこまで行けるのか、正確にはわからなかった。映画の成功は、私自身のプロジェクトであったからです。つまり好きなことができた。誰もお金を出してくれませんでした。だからこそ、映画が完成したとき、本当に良いものができたと思いました。

ユーチューブ配信すれば何百万回も再生されない限り、稼げません。SNS上に上げられ、(価値が)消えてしまう可能性もある。私たちはいくつかストリーミング・プラットフォームでスポーツ・ドキュメンタリーなどが配信されているのを見て、作品の質を上げなければならないと考えました。だから編集に2年かかりました。

映画の完成後は、基本的に配給会社を探しました。香港の配給会社「安楽影片(Edko Films)」とつながることができ、その後映画館で上映したいと言っていただいた。とてもうれしかったです。可能な限り最高の映画をつくることが、私たちがやりたかったことでした。

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――撮影当日に心掛けたことは。

私はランナーとして FOUR TRAILS に参加したことがありませんが、香港の山をよく知っています。他のレースもよく撮っています。ランナーが疲れや寝不足、吐き気を感じそうな場所、そうした瞬間を撮るためにどこに行けばいいのかも分かっているので、事前に撮影班と全て計画しました。最高の場所、景色のために。近づいた方がいい場合は手持ちカメラで迫ります。場所によって注ぐエネルギーが変わります。

当日はランナーが疲れて遅れることもあります。だから臨機応変に対応しなければなりません。撮影のチャンスは一度きりなので、何も見逃さないよう12人のチームでカメラを回しました。ランナーはバッグにトラッカーを付けているから、どこにいるか確認できます。弟のベンがパソコンで調べて、撮影班に電話で適時知らせてくれていました。

間違いなく初日は楽しかったですね。山に登り美しい写真を撮り、幸せでした。でも終盤には体力がどんどん失われていく。3日目は2時間しか寝ていません。疲れていましたが、重いカメラを持って鳳凰山(ランタオピーク)に登りました。それでも、彼らがゴールの緑のポストにたどり着くのを見ると、エキサイティングな気持ちでいっぱいになりました。ジャッキーが50時間を切った時もそうでしたが、誰かが偉大なことを成し遂げるのを見ると本当にうれしいし、皆で泣きました。そういう瞬間が好きなのです。

――最も描きたかったことは何でしょうか。

一つ目はその挑戦がどれだけ難しいかということ。これが最も重要です。二つ目は、それに挑戦している人々の姿、物語です。彼らの忍耐強さ、強い精神力を見ていると、私自身も何かに挑戦しようという気持ちになります。失敗したとしても悪いことではない。再び挑戦して突き進めばいい。失敗は悪いこととは限りません。

三つ目は、香港にはこのような美しい風景があるという事実です。香港に住んでいる人だけでなく、海外の人々にも香港の素晴らしい山々やトレイルを見てもらいたい。香港を高層ビルが建ち並ぶコンクリートジャングルとしか考えていない人がいるかもしれませんが、映画を見てきっと「すごい。知らなかった」と思うことでしょう。

――機会があれば、もう一度撮りたいですか。

これ以上、語る話はありません。全ての情報が映画に詰まっています。(次に撮るなら)別のテーマや人物の作品をつくりたいですね。映画製作はとても時間がかかります。FOUR TRAILS は完成までに約3年かかりました。だから別のドキュメンタリーを撮るなら自分に合ったものを見つけたい。テーマはスポーツとは関係ないかもしれません。それでも、FOUR TRAILS と同じ情熱を持ちたいと思っています。

――反響を呼び、地元メディアでも取り上げられています。

なんとか新しい観客を獲得することができました。多くの人が(映画館上映は)難しいだろうと言いましたが、実現できました。今ではたくさんのファンがいます。全く走らない人たちからもインスピレーションを受け取っています。ハイキングすらしない人もいます。それでも、映画館で拍手したり、泣いたりしたそうです。多くの観客に届けたいと考えていたのですが、本当にうれしいです。

――映画を通して伝えたいメッセージは。

香港は私のホームであり、FOUR TRAILSは素晴らしいイベントだと思います。この映画を通じて、香港がいかにユニークで素晴らしいかを人々に思い出してもらいたい。香港には、独特の風景があり、西洋と東洋の文化が混在し、多様な人々がいます。私はただ、そのポジティブさを広く知ってもらいたいだけなのです。

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「香港はホーム」と話すロビン監督=1月23日午後、香港島・赤柱(スタンレー)

【略歴】

Robin Lee(ロビン・リー) ドキュメンタリー映画監督・撮影監督

英国人の両親の下、香港島南部で生まれ育つ。英国の高校と大学に進学。卒業後は香港に戻り、ドキュメンタリー映画監督のほか、コマーシャルやブランドコンテンツなどの撮影監督として活動している。代表作に『FOUR TRAILS』、『Breaking 60: Challenging the Impossible』など。35歳。

(聞き手:辻真輝=フリーライター)

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