特別企画インタビュー①
「挑戦の本質を維持していきたい」
アンドレ・ブルンベルグさん
香港4大トレイルイベント「Hong Kong Four Trail Ultra Challenge(HK4TUC)」 創設者
ゴールしたネパール人ランナーと話すアンドレ・ブルンベルグさん(左)=2月1日午前10時40分ごろ
――今年のイベントを終えた感想を聞かせてください。
2025年のHK4TUCの参加者たちは非常によく頑張りました。参加者15人中11人がサバイバー(生還者)の制限時間である72時間以内に全距離を完走できるという、素晴らしい結果となりました。今年の天候はほぼ完璧でしたが、夜間のスタートだったため、ランナーは睡眠のスケジュールやペースを柔軟に管理する必要がありました。
――何度も同じ質問をされていると思いますが、このイベントは賞もメダルもなく、順位もないといいます。来年からスマートフォンの使用も禁止になると発表されていますが、狙いは何ですか。
HK4TUCはレースではなく、個人的な挑戦です。自分自身への挑戦として参加するもので、他人と競うためではありません。ウルトラマラソンのレースイベントには何の問題もありません。香港には素晴らしいレースがたくさんあり、私自身も長く、香港や海外の両方でさまざまなレースに参加してきました。
しかし、HK4TUCはコミュニティー主導で、営利を目的としない実質本位の挑戦であり、純粋に招待制です。スポーツ競技ではなく、非常に小規模で非営利の、余計なモノを省いた挑戦なのです。なので、賞もメダルもランキングのようなものはありません。志を同じくするウルトラトレイルランナーが集まり、個々に自分自身の挑戦をするだけ。ただ楽しむために――そこにトレイルがあるから。
――参加者は、アンドレさんが選考されているそうですが、選ぶ基準として、何を大事にされているのでしょうか。
(自分が選考しているというのは)その通りです。イベントに登録したり申し込んだりすることはできません。招待される必要があります。参加者はウルトラトレイルランニングに関する経歴を持っているかどうか慎重に審査されます。そのため、最低条件は指定された制限時間内に、公式の100マイル(約160キロメートル)のトレイルウルトラマラソンを少なくとも1回完走することです。
二つ目に、イベントのエートス(挑戦の本質)が維持されることが重要です。あくまで個人的な挑戦であり、レースではない、ということなどです。ですから、興味のあるランナーは、なぜ参加したいのか、なぜ自分が参加者として選ばれなければならないのかについてエッセイを書く必要があります。
また、経歴や性別、国籍、居住地、年齢など、どの年もさまざまな領域の人が参加していることも重要です。私たちはウルトラランニングというスポーツとイベントを、女性に広めることを目指しています。長距離走行に関する研究によれば、150マイル以上では、女性の方が男性より成功する可能性があります。粘り強さやコミットメント(責任を持って関わること)レベルの高さ、準備の綿密さがあるからです。HK4TUCでも長年確かに見てきたことであり、今後、より多くの女性の参加者を迎え入れたいと考えています。
――応募数はいつもどの程度あるのでしょうか。
毎年約150~200件の応募があり、数は年によって異なります。全ての応募書類にエッセイを添付しなければなりません。しかし、応募者の中には、このことをあまり真剣に考えず、エッセイの代わりに短い文章だけを書いて提出する人もいます。そうした提出書類はそれ以上考慮されることはありません。
最年少ランナーの完走を称えるアンドレさん(左)=2月1日午後5時20分ごろ、ランタオ島・ムイオー
――映画化されてからイベントの反響をどのように捉えていますか。
このチャレンジ(レースではありません)は、(当初から)本当に変わっていませんし、これからも変わりません。もちろん、映画『FOUR TRAILS』のおかげで、このイベントについての認知度はさらに高まっています。
監督のロビン・リーとプロデューサーのベン・リーは、HK4TUCの価値と精神を映画に真に反映させるという傑出した仕事をしてくれました。人間の精神に加え、個人がいかに困難な目標を設定し、それを克服していくかを示す素晴らしい映画です。成功する人もいれば、そうでない人もいます。しかし、それは問題ではなく、最も重要な点は、彼らが(目標に向けて)努力することです。
――2012年にHK4TUCをアンドレさん自ら1人で始められてから今年で13年になります。初期と比べて、一番何が変わったと思いますか。
2025年で14 回目となりました。HK4TUCの精神、デザイン、コンテキスト(文脈)は今も同じです。それは独立した個人による個人的な挑戦です。HK4TUC の本質は、あなたとあなただけが、非常に長く持続的な期間を、トレイルとあなたの挑戦の中で闘うことなのです。
もちろん、年を追うごとに、特にこの映画によって、このチャレンジは以前に比べ広く知られるようになりました。しかし、私たちはさらに大きなイベントに成長させるつもりは決してありませんし、スポンサーを付けたり、レースにしたりするつもりも全くありません。私たちはチャレンジの本質を守り、それに従って参加者を選ぶように努めていきます。
――今年のルール変更を受けて、一部の地元メディアはランナーの安全性に懸念を示し、自重気味に報じていました。他方で、参加者からは特に危険だと思わないとの声もありました。これについてどう受け止めますか。
参加者の安全性(確保)が、このチャレンジの一番の目標です。私たちは10年以上前に、香港で初めてジオロケーション・トラッキングを導入しました。全地球測位システム(GPS)トラッカーと電話、緊急用ブランケットは必須です。参加者の選考は厳しく、経験豊富なランナーだけが参加できるよう、いくつかの基準を設けています。日本人参加者から、類似のイベントに出たことがあり心配していないという声があったのはそのためでしょう。
完走したランナーと写真を撮るアンドレさん(左から2人目)=2月1日午後5時45分、ランタオ島・ムイオー
――今後の見通しについて教えてください。
HK4TUCは、少数の参加者による個人的なチャレンジです。それは今後も決して変わりません。チャレンジのルールは過去10年で進化してきました。おそらくこれからも進化し続けるでしょう。ルール変更の多くは、実のところ、不必要なテクノロジーやガジェットを取り除くことでチャレンジ本来の性格を維持するためのものです。
私は、参加者たちが長年にわたって、志を同じくする人々から成る強力なコミュニティーを形成してきたことを誇りに思います。実際、生涯の友となる人も多いことでしょう。
(聞き手:辻真輝=フリーライター)

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