香港政府は2026年3月2日、資産運用およびウェルスマネジメント業界の国際的競争力を強化するため、ファンド、シングルファイミリーオフィス(Single Family Office: SFO)が管理する同族投資持株会社(Family-owned Investment Holding Vehicle: FIHV)、およびキャリードインタレストに対する優遇税制の拡充案を発表しました。この発表は、2024-25年度予算で示された方針を踏まえ、2024年末から2025年中に行われたパブリック・コンサルテーションを経て策定されたものです。関連法案は2026年上半期中に提出され、2025/26課税年度から遡及適用される予定です。
主な改正ポイントは以下の通りです。
1.統一基金免税措置(Unified Fund Exemption: UFE)の拡充
対象ファンドの範囲拡大
従来の対象に加え、新たに以下の機関・基金がUFEの適用対象となります:
- 年金基金
- 寄付基金(税制上非課税とされる第88条団体を含む)
- 政府機関、中央銀行、国際機関が唯一の投資家であるファンド
- 投資家が1名のみで、対象投資資産(スケジュール16C資産)の運用額が2億4000万香港ドル以上ある場合。ただし、投資家が日常的な運用管理を行わないことが条件
特に注目されるのは、唯一の投資家が政府系機関などの場合でも、指定されたマネージャーによる運用が必須でなくなった点です。これにより、主権財産基金(Sovereign Wealth Fund : SWF)なども柔軟に香港に拠点を設けやすくなります。
また、Schedule16C assets(対象金融商品)の取引や利益の発生が、商業・産業目的の事業と見なされないことが明確に規定されました。これにより、ファンドの税制上の地位が安定することとなります。
2.対象投資資産の拡大
従来の金融商品に加え、以下の資産が課税対象外の「対象投資」に追加されます:
- 香港以外の不動産
- 排出権デリバティブ・排出枠/カーボンクレジット
- 保険連動証券(ILS)
- 非法人形態のプライベート・エクイティ(例:有限責任事業組合)
- 貸付・プライベートクレジット投資
- デジタル資産(ただし、非対象資産への権利を暗号化したものは除く)
- 貴金属(新たに追加)
- 指定商品(OTCデリバティブや先物取引に関連・附随するものに限る)— 取引量の15%まで(新たに追加)
また、「非上場企業」の定義が見直され、収益発生時点において株式や社債が証券取引所に上場されていない企業と明確化されました。これにより、上場前の企業投資や非公開市場での取引が対象となる可能性が高まります。
3.利益免税要件の緩和
ファンドの利益が課税対象となる「事業的活動」に該当するかどうかの判断基準が緩和されます。特に、ファンド自体が事業運営に実質的に関与していない限り、対象外資産からの利益であっても免税対象とされる可能性が高まる見込みです。これにより、運用戦略の自由度が向上します。
4.シングルファミリーオフィス(SFO)とキャリードインタレストへの配慮
FIHVやSFOが管理する同族の特定目的事業体(Special Purpose Entities: SPE)についても、同様にUFEの恩恵を受ける仕組みが維持・強化されます。また、プライベートエクイティやベンチャーキャピタルにおける報酬形態であるキャリードインタレストについても、事業所得税および給与税の免税措置が維持され、適用要件の明確化が図られます。
まとめ
今回の税制改正は、香港がシンガポールなどと競争する国際的ファイナンスハブとして、ファンドおよび富裕層向けの税環境を大幅に整備するものであり、特に政府系基金やシングルファミリーオフィスの誘致に効果が期待されます。対象資産の多様化(カーボンクレジット、デジタル資産、貴金属など)は、現代の資産運用ニーズに応じた柔軟な対応とも言えます。法案の成立後、アジアにおける資産管理の中心地としての香港の地位がさらに強化されると考えられます。
<筆者紹介>
Kayo Kaneko(金子 佳代)
Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所
日系企業サービスグループ/シニアマネジャー
日本国税理士/経営管理学修士
- 他四大税理士法人勤務を経て2020年10月デロイトトーマツ税理士法人に入所。10年以上に渡り、税務コンプライアンス・税務アドバイザリー業務に従事。
- 日系及び外資系の金融機関をはじめ、日系多国籍企業、外資系ファンド等幅広い分野の税務コンプライアンス・税務アドバイザリー業務を提供。
- 特に多国籍企業が行うクロスボーダー取引、投資ストラクチャーに係る税務アドバイス、M&A・グループ内再編に係る税務アドバイスを専門とする。
- 2024年9月よりDeloitte Touche Tohmatsu香港事務所にて、日系企業の監査、税務、その他課題解決のためのコーディネーション業務に従事している。
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